今月のおはよう21
介護専門職の総合情報誌『おはよう21』最新号の内容をご紹介します。
脳科学で理解する
認知症の人の世界と共感的支援
『おはよう21』2023年6月号から、特集(脳科学で理解する 認知症の人の世界と共感的支援)の内容を一部ご紹介いたします。
認知症の人は、不安や絶望などさまざまな思いを抱えています。
一方で「自分は認知症ではない」というように病識が乏しい人もいます。
認知症の人を支えるためには、その人の思いやその人の言動・表情などから見える内面世界を理解することが大切です。
脳科学の視点から認知症の世界を理解するポイントを考えます。
本人に「聞く」ことからケアを始めよう
ケアの基本は、本人の声を聞くことです。
本人の主観を確認することから、ケアを始めましょう。
そのケア、本人は望んでいる?
認知症の人をケアするとき、介護職はつい自分なりの解釈でかかわってしまいがちです。
しかし、まず大切なのは、本人の声を聞くことです。そのケア、本人が望んでいる? そのケア、本人の能力を奪うのでは? そのケア、本人の尊厳を考慮している? などなど。
直感でケアを始める前に、チョット立ち止まり、本人の声に耳を傾けてみましょう。本人の主観=心の内なる世界を確認することがケアの第一歩です
本人の意思を確認する
たとえば、服薬拒否の場面で考えます。本人から「この薬いらない」と言われたら、あなたはどうしますか。
「どうやって飲ませようかな、ご飯に混ぜようか?」と考えますか?
そう考える前に、本人に内服しない理由を尋ねてみましょうというのが、筆者からの提案です。
本人が「なぜ?」という質問に答えられなければ、「この薬を飲むのは嫌ですか?」「この薬を飲むと気持ち悪くなりますか?」「この薬は必要ないと思っていますか?」など「はい・いいえ」で答えられる質問をして、原因を探ってみましょう。
そして、本人の意思が確認できたら、医療職にその意思を含めた状況を伝えて、その薬の内服が必要かどうかを検討してもらいましょう。
入浴や食事の拒否も同様です。
本人がどんな気持ちなのか、本人が漏らす言葉や表情などに注意を払い、本人の主観を推測してみることが第一段階です。
「業務効率第一」ではなく、「本人の声ファースト」です。
入浴拒否の場面では、「風呂に入れるのが私の業務だから、どうやって誘おうか」ではなく、「この人はどうして入りたくないのだろう」と考え、それを本人に尋ねてみましょう。
じっくりと聞き出すと、意外な理由が隠れているかもしれません。
認知症の人のなかには、風呂の湯がぬるぬるして気持ち悪い、ピリピリ刺激されるなど、入浴を心地よく思っていない場合があります*1。
本人に尋ねると、「こんな時間に入りたくない」「人前で裸になるのが嫌」「くさいから入れと言われて、腹が立った」など理由はさまざまです。
推測に基づく善意で入浴を勧めるとき、本人がどう思っているのかをゆっくりと聞き出し、自分の推測が正しかったかどうかを確認してから、対応を考えましょう。
認知症の人の生活安寧指標
では、認知症の人はどんな生活を望んでいるのでしょうか。
筆者らは、在宅の認知症の人が希望する生活項目とその達成度を調査しました。
たとえば、「家の中に落ち着ける居場所がある」は96%の本人が望み、実現度は90%でした。
一方、「家族や周りの人の役に立つことをしている」は65%の人が望んでいるものの、実現度は31%でした。
この調査をもとに、本人が「認知症などの病気により自分の考えを伝えることが難しくなっても実現したい具体的な生活状態項目」として、24項目の認知症の人の生活安寧指標*2を作成しました(表1)。
表1 認知症の人の生活安寧指標24項目版(赤字は11項目版)
項目ごとに、実現度を「できている」〜「できていない」の4区分で数値化できます。
この合計点は、サービス事業所による個々の支援、本人・家族のセルフケア、自治体の認知症施策等の成果把握などに活用できます。
さらに、介護施設でも簡便に使えるよう、11項目短縮版*3も作成しました。
各項目の実現度だけでなく、希望の有無も本人に尋ねます。
希望を実現するようなケアを提供できたら、本人もケアする側も嬉しいと思います。
「他に望むことは?」という追加質問もあります。
11項目を聞く過程で、本人はこの人に「希望を述べていいのだ」と気づき、いろいろな希望を語ってくれる可能性があります。
このような本人の希望を聞き取るプロセス自体が大切で、「私たちは本人の声をもとにケアを提供したいと考えている」というケアする側の気持ちが本人に伝わります。
実現度を点数化し、「見える化」することは大切ですが、ケアする側の態度を本人に示す・理解してもらうことが、相互の信頼関係を構築するうえで、とても大切です。
- *1 筧裕介『認知症世界の歩き方』ライツ社、2021
- *2 認知症施策アウトカム指標実施の手引き.ウェブサイトDCnetで公開
- *3 ウェブサイトDCnetで公開
- 執筆 山口晴保
認知症介護研究・研修東京センター、群馬大学名誉教授。認知症専門医、リハビリテーション専門医。認知症ケア研究誌編集委員
以上は、『おはよう21』2023年6月号の特集の内容です。このほかにも本誌では、下記のトピックを取り上げ解説しております。ぜひお手に取ってご覧ください。
特集
脳科学で理解する 認知症の人の世界と共感的支援
- 1 本人に「聞く」ことからケアを始めよう
- 2 認知症の人の世界を知ろう❶-「メタ認知」と「病識」
- 3 認知症の人の世界を知ろう❷-「社会脳」と「共感」
- 4 「脳のネットワーク」とメタ認知・社会脳
- 5 「セロトニン介護」で本人も介護職もウェルビーイングに
- 『おはよう21 2023年6月号』
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