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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第116回 地域の福祉を体現し高齢者の人生のトータルサポートを目指したい

木田祥太さん(33歳)
シルバーワン株式会社 代表取締役
社会福祉士
(東京・西東京市)

取材・文:藤山フジコ

調布市より青少年の模範として表彰されました

 中学生のとき、聴覚障害者がヒロインの「君の手がささやいている」というドラマを見て感動し、手話に興味を持ちました。ちょうど地域の調布市の公民館で「手話を学ぶ会」があり、聾者の先生から手話を教えていただきました。高校に進学しても手話を続け、小学生や中学生に手話を指導する側になって、公民館のイベントで手話劇を披露することになりました。自分で「十二支のはじまり」の台本を書き、小学生に手話のセリフの稽古をつける。小学生は全く言うことを聞かず大変な思いをしたのですが、これ等のボランティア活動が評価され、調布市より青少年の模範として表彰されました。多感な頃の経験が福祉の仕事に就く原点になったと思います。

ヒッチハイクしながら、多くの介護施設を見学

 福祉の大学へ進学し、夏休みにヒッチハイクをしながら色々な施設を見て回りました。九州では、紹介してもらった施設に1週間泊まり込みでボランティアをしたり、沖縄の離島を巡る旅では、ハーブを栽培しハーブで認知症ケアに取り組んでいる石垣島の施設など見学に行きました。多くの施設を見ましたが本当に良い施設は少ないと感じ、将来は自分の理想の介護施設を建てたいとの夢を持ちました。

一般社会と介護職の感覚のズレ

 大学卒業後はすぐに就職せず、1年という約束で親の介護保険外のサービスの事業の立ち上げを手伝いました。その後、介護付有料老人ホームに生活相談員として就職しました。この仕事は入居希望者の方の相談を受けたり、ホームの見学対応や入居契約業務などを行います。入居していただいてそれで終わりではなく、一番大事なことは入居後のご家族との信頼関係を築いていくことだと思っています。ご家族に安心していただけると入居されたご本人も穏やかに生活していけます。

 ただ、現状は常に施設が人手不足のため、入居相談員が受診に付き添ったりして、本業のご家族の方に手紙を書いたり、電話をしたり、訪ねてこられたらお会いしたりということが手薄になってしまう。そんな時に施設内で事故が起こると、ご家族の不信感から大きなトラブルに発展してしまうのです。

 ある日、入居の方の高級腕時計が施設内で紛失したことがありました。その方は認知症を発症されていたのですが、入居時、契約書に金品を持ち込まないことと書いてあり、同意されていました。ご家族から高級時計が無くなったから探してほしいとの要望があり、施設側は「探したけどありませんでした」で終わり。そもそも契約書に書いてあったのに持ち込んだ方が悪いというスタンスです。しかしこれがホテルなどのサービス業だったら警察が介入する事件になるかもしれず、本気で対策しようとしない介護業界の体質に違和感を覚えました。3年半勤めましたが「普通の感覚」を取り戻したくなり転職しました。

老人ホーム紹介センターを起業

 介護以外の仕事をしようと不動産業に飛び込みました。大学生の頃から介護施設を建てる夢があったのでその勉強になると思ったのと、営業では不動産が一番過酷だと思い自分を試してみたい思いもありました。不動産会社で働くのは1年と決めて、営業で1番の成績を取ったのち、大手の介護サービス会社に入社しました。そこで施設の立ち上げから関わり、マーケティングなど勉強させてもらいました。2年勤めた後、地域介護相談センター「近所のよしみ」を独立開業しました。

信頼できる紹介センターとは

 老人ホーム紹介センター「近所のよしみ」を起業したのは、現状があまりに酷いと思ったからです。紹介センターは介護施設が紹介センター側に紹介料を払う仕組みなのですが、どうしても入居者が欲しい施設が今月は紹介料を倍にしますということがあるのですね。入居される方やご家族は終の棲家を探しているのに、悪徳紹介会社へ行ってしまうと、紹介料の高い施設を紹介されてしまう。胃ろうも知らない営業マンの口車に乗ってしまい、不本意な施設で暮らすはめになる。

 信頼できる紹介センターかどうかを見抜くには、紹介者が介護現場で3年以上の経験者であること、相談員の経験者、国家資格の有資格者(社会福祉士・介護支援専門員・介護福祉士)であれば、医療面、介護面、それぞれの施設の内面を理解し、その方に合う適切な施設をご紹介できると思います。

離職者が多く定着率が悪い施設は問題があるケースが多い

 施設を選ぶ基準も「応対した施設長や紹介者がいい人そう」だとか、「施設が綺麗」などということで判断するのではなく、数字をきちんと“見る”必要があります。介護付有料老人ホームは年に一回入居者やご家族を集めて運営懇談会を開きます。運営懇談会では施設の「職員配置」「現在の入居者状況」「年間イベントと勉強会の報告」「事故、感染症報告」についての報告やさまざまな質疑応答が行われます。その議事録資料を見ると施設の問題点が見えてきます。

 注意すべき点は職員の離職率です。厚生労働省の資料と比較し、それより多ければ施設運営が上手くいっていないことになります。議事録に記載してある質問やクレームなどにも目を通し「ワムネット」(注 :1)を閲覧したり、重要事項説明書を確認するなど、きちんとした資料をもとに客観的に判断することが大切です。

生活保護受給者の施設入所

 独立して1年経ちましたが、生活保護の方の相談が福祉事務所から来ることが多くなりました。最近の例では依頼された先を訪ねるとゴミ屋敷状態。大量のゴミを処分し、入所できる施設を探し、入りたくないと言うのを何とか説得し入所にこぎつけました。諸々の手続きをしたら20万の赤字です。

 現在、高齢者の貧困問題が顕在化していて、高齢者の生活保護受給者数が年々増加傾向にあります。特別養護老人ホームなどの公的施設に入れない低所得者や生活保護受給者らが、行政の監督が行き届かない無届けホームに入居させられ劣悪な環境に置かれたり、貧困ビジネスなど不正の温床になったりする恐れがあります。そうならない為に、手続きができない方の年金手帳や生活保護の申請の支援もしています。

近所のよしみで助け合う社会へ

 なぜここまでやるかと言えば、誰もやらないからです。むかしは損得考えず、近所のよしみでお互いに助け合っていた。地域福祉とは、困っている人がいたらその人が自立した生活ができるようになるまで、様々な福祉や地域住民の支援を使い幸せな生活を送ってもらい助け合うことです。そのような地域福祉を実現させるため「近所のよしみ」として支援しています。

 矛盾しますが、良い施設は口コミで人が集まると思います。最終目標は、ご家族からも信頼され、常に入居の方の視点に立ち、自己選択・自己決定を尊重する介護施設をつくりたいと思っています。

注 :1)福祉全般に関するポータルサイト。現在は独立行政法人福祉医療機構が運営を行っている。

  • 近所のよしみHP  http://kinjyonoyoshimi.com/
    ※ 木田さんへのお問い合わせ、講演依頼は 0120-110-512 で受け付けています

「優良老人ホームの見分け方」のセミナーで講演する
木田さん

【久田恵の視点】
 超高齢社会になって、介護が市場になり、高齢者が消費者としてみなされる時代になりました。経済格差の実態もあらわになり、当事者に代わって社会に向かって発言していくことがもとめられています。木田さんの会社は、今、登場すべくして登場した会社ですね。