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介護職に就いた私の理由(わけ)

さまざまな事情で介護の仕事に就いた方々の人生経緯と、介護の仕事で体験したエピソードを紹介していきます。「介護の仕事に就くことで、こんなふうに人生が変わった」といった視点からご紹介することで、さまざまな経験を経た介護職が現場には必要であること、そして、それが大変意味のあることだということを、あらためて考えていただく機会としたいと考えています。
たとえば、「介護の仕事をするしかないか・・」などと消極的な気持ちでいる方がいたとしても、この連載で紹介される「介護の仕事にこそ自分を活かす術があった・・」というさまざまな事例を通して、「介護の仕事をやってみよう!」などと積極的に受け止める人が増えることを願っています。そのような介護の仕事の大変さ、面白さ、社会的意義を多くの方に理解していただけるインタビュー連載に取り組んでいきます。


花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第19回 内装会社経営から通所介護施設長へ 
僕は、「生に対するアシスト~喜んでもらえる介護~」を探りたい

田山 寛さん(52歳)
オアシスクラブ 施設長/生活指導員(千葉・御成台)

取材:原口美香

どうも介護って、古い考え方が残っていると気づいた

 この仕事に就くまでは、銀座で内装会社の経営をしていたんです。あるとき、親父が病気になって、手術後に寝たきりのような状態になってしまいました。いくつか病院を変わって、最後の病院で看護師さんから、「どうして介護保険の申請をしないんですか?」って言われたんですね。そこで初めて「介護」というものを知ることになったんです。マスコミなんかで、ある程度の知識はあったけど、どういう仕組みかというところまでは、わからなかった。

 それで親父が亡くなった後、千葉で暮らしているお袋が一人になっちゃうので、「帰ろうかな」と考え始めました。その頃、ちょうど友人から、「今、新しく介護の事業を始めたから、一緒にやらないか?」と誘われたんです。それが、3時間の通所介護施設でした。友人が「もう1軒、作りたいんだ」と言っていて、僕はちょうど内装の仕事をしていたから、「じゃあ、作るところからやろう」と思い、自分の事業は畳んで、地元の千葉に戻ってやり始めたんです。

 それで更地の状態から施設を作ることにしたんですけど、どうも介護って、古い考え方が残っていると気づいたんです。折り紙や塗り絵もいいんだけど、今はもう団塊の世代の人たちが来るようになってきて、来てもらう人にもっと喜んでもらえるような、楽しめるものにしたいと思うようになりました。それで、女性にターゲットを絞って、ヨガを中心としたものを作ることにしたんです。それだけじゃなく、コミュニケーションが取れるようなカフェコーナーを作って、マッサージも入れて。事前にある程度、聞き取りなどの調査もしましたね。送迎の車には「介護」の文字を入れないし、会社のロゴはオシャレに、建物自体もカラーリングを鮮やかな色にして、介護っぽくならないように考えました。

 利用者さんに聞いてみると、「自分は、介護の施設に通うんだけれども、やっぱり近所の人には知られたくない」と。世間では介護っていうと、寝たきりみたいな認識になっているんです。日本の政府も、市町村を含めて、きちんと「介護」っていうものを伝えてないと思うんですよね。ちょっとそういうズレを感じます。

 この施設を作って、「利用者さんに喜んでもらえてるな」と感じられるのは、紹介でどんどん人が増えていくというところです。ここは、午前と午後に分かれて、1回の受け入れ人数が15人ずつ。今、ちょうどオープンして1年半くらいですが、9割がた埋まりましたね。

介護は、生に対してのアシスト

 僕は、「介護は、生に対してのアシスト」だと思っているんです。高齢になって、仕事を離れて、みんな自分の存在価値を考えるんですよね。核家族が増え、人間関係も希薄な部分もあるから、「自分の存在価値はないんじゃないか」「なんのために生きているのか」とたくさんの人たちが口にするのをよく聞きます。

 この地区には、旦那さんを亡くした高齢の女性が一軒家で一人暮らしをしているケースが結構多いんです。私も職員も利用者さんの話を聞いたりしますが、一番大切なのは「自分だけじゃないんだ」と、利用者さん同士で気持ちを共有しながら、自分の存在価値だったり、生きがいを見つけることだと思うんです。習いごとを始めたり、新しいことにチャレンジしたり、そのことが支えになる。こういう介護の施設によって、仲間ができたり、週に何回か行く場所ができるっていうことが、とても有意義なことだと思うんですよ。通うことによって、身体のメンテナンスも得られるし、それが「予防介護」にもつながる。見た目は介護を必要としない、っていう人も結構いるんです。単なる身体介護じゃなくて、「精神介護」って言葉があるのかどうかはわからないけど、こういう施設が、精神的サポートの役割を果たしていると思います。

見えないサービスの需要がたくさんある

 今、「便利屋さん」っていうのが、この地域でも、ものすごく流行っているんですよ。高齢になると、電球1個交換することが難しくなってきたり、買い物に行くことが大変になってきたりします。ヘルパーさんが入っていても、規則でやっちゃいけないことが多くありますよね。ガラスは拭いちゃいけない、天井の掃除はしちゃいけないとか、もちろん、そういう規則は必要なんだけれども、実際に生活する上で困るのは、重いものだったり、高い所だったり。本当に困っていることって何なのかな、っていろいろ話をしたりして、うちではお金をいただくってことではなくて、できることはしてあげたらいいかな、って。電球を取り替えたり、買い物に行ったり、調子が悪くなったパソコンを直したりもしますね。要は見えないサービスだよね。接点は非常にある訳ですよね。週に2回来ている人、3回来ている人、送迎の車の中。そうすると、その人たちと一緒に共有する時間が長いから、困っていること、やって欲しいこと、精神的なものもやっぱりわかるから。

 桜の季節には、送迎の車を少し遠回りして、きれいなスポットを走ったりね。前は旦那さんがいて、車でいろんなところに行けたけど、今は行けなくなったと。だんだん行動範囲も狭まってくる。「利用者さんに見てもらったらいいんじゃないか」と思って、試しにやってみたら、非常に喜んでもらえたんです。「また、来たいな」って思ってもらいたいし、「今日は楽しかったな」「花が見られてよかったな」と、そういうのも、生活の中に必要だと思うんですよね。

 これからの時代は、利用者さん自身が、介護の施設や介護サービスというものを選ぶ時代になってくると思うんですよね。そのニーズに応えられるような、喜んでもらえるような介護を探っていくつもりです。

おしゃれなオアシスクラブ全景

インタビュー感想

 田山さんは「笑いは、免疫力を上げるんだよ」ということで、絶えず人が楽しむことを考えているような人です。あるとき、シクラメンの鉢植えを買ってきたら、「買いに行けないから欲しい」という利用者さんがいて、それ以来、代行でまとめて買いに行くこともあるとか。利用者さんの生活のささやかな喜びを大切にしたいという、田山さんの優しさに深く感動しました。そして、予防介護の重要さ、そして精神的なサポートというものがどれだけ必要とされているのかということを、あらためて考えさせられた取材でした。

【久田恵の眼】
 人の意識の変化は、いつだって遅れてやってきます。
 特に高齢者に対するイメージは、時代遅れ。おばあさんやおじいさんは、皆、腰が曲がりしわくちゃに描かれ、頑固で、子どもっぽくて、なにもできない人というようにイメージされがちです。でも、現実の高齢者は、個性的です。いろいろな体験、知識と能力を持つ人たちです。介護サービスは、これからは介護を受ける人が自ら選ぶ時代に入っていきます。彼らの個別で多様なニーズに向き合えない事業所は、淘汰されるでしょう。その一方で、いろんな、ユニークなサービスが立ち上がっていく時代になるといいですね。わくわくします。