マンガでわかる 介護のキーワード
介護の常識は世間の非常識といわれることがありますが、介護現場で語られる言葉に違和感を覚える人もいるようです。
この連載では、こうした「介護の常識」をマンガで考えていきます。
- プロフィール梅熊 大介 (うめくま だいすけ)
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1980年生まれ、群馬県出身。
東京で漫画家アシスタントをしながら雑誌、ウェブにて作品を発表。2009年第6回マンサン漫画大賞(実業之日本社主催)佳作受賞。デジタルマンガ・コンテスト2012(デジタルマンガ協会主催)優秀賞受賞。9年間のアシスタント修業の後、32歳で介護職員となり、以後介護を中心とした企業広報マンガを執筆。2015年現在、所属する大起エンゼルヘルプのホームページに新規採用者向け介護マンガを連載。著書に『マンガ ボクは介護職員一年生』(宝島社、2015年)がある。
第8回 地震は天災ですが、デマは人災です。
言うまでもなく、4月14日21時26分に発生した、熊本地震についての話です。このコラムが掲載されるころには状況も変わっているでしょうが、発生直後の今、感じたことが大事だと思い書かせて頂きます。
19日現在、未だ正確な情報は少なく、混乱が続いております。インターネットのデマをテレビが放送し、即日訂正するという椿事も起こりました。
東日本大震災時と違うことの一つに、SNS(ソーシャルネットワークサービス)の普及が上げられると思います。検索サイト最大手のGOOGLEはメインページの下部に地震情報専用リンクを作っており、『パーソンファインダー』という安否確認システムを起動させています。これはインターネットの便利な利用例です。
しかし地震発生後、マスコミ発信の情報よりもツイッター、フェイスブックなどで一般人からの情報が先に流れました。中には現地からの切実な声もありましたが、無関係な人たちの、驚き、戸惑い、憶測の呟きも少なくありませんでした。未確認情報を煽ったり、悪ふざけの写真をアップロードして、デマの元になったものも数多くあります。これはSNSの発信力が悪いほうに出た見本のように思えます。
直感的に「イヤだな」と感じたのは、デマの出所も騒いだ人も、現地の被災者とは関係ないマスコミや他の地域の人々だったことです。
被災地にデマが飛ぶのはわかります。
関東大震災では、混乱に乗じて外国人や被差別階級の人々が暴動を起こすなどのデマが広がり、暴行、殺人まで起きてしまいました。阪神大震災でも、大きな事件にはなりませんでしたが同様のデマが流れたという記録があります。東日本大震災では放射能についての未確認情報が混乱を招きました。震災という非日常の不安から、流言飛語が発生する。その気持ちはわかります。
しかし今回のデマはどうでしょう。熊本県警察本部より直接注意喚起のあった「流言」を見てみますと・・・「●時間後にまた揺れる」等の地震予知デマ、「外国人が井戸に毒をいれた」等の差別的なデマ、「動物園から猛獣が逃げた」「●●デパートが火事」「被災地で強盗が多発している」等の不安を煽るデマなどがインターネット上で流布されていたようです。むろん事実無根で、熊本県警はハッキリ否定し騙されないよう呼びかけています。
つまり今回のデマは一部の愉快犯的人間が上げた流言をインターネット利用者が拡散し、プロであるはずのマスメディアが事実の検証もせず、話題性に飛びついた結果発生したものです。軽率としか言いようがありません。
おそらく、「善意」なのだと思います。情報をネットで拡散した人も、それを取り上げたメディアも、注意喚起のつもりだったのでしょう。現地に共感し、ともに不安を持ち、情報を少しでも広めたいという善意だったのでしょう。
しかしそういった感情的な善意が全く実効力をもたないことは、5年前にイヤというほど味わったはずです。正確な情報を「待つ」ことの重要さを学んだはずです。こういう言い方は嫌われそうですが、見当違いな善意ほど手に負えないものはありません。
東日本大震災のあと、一時期テレビCMがAC(公共広告機構)ばかりになったのを覚えていらっしゃるでしょうか。「こんなときに商品の宣伝をすべきではない」とスポンサー各社が感情的に自粛した結果です。あれはなんだったのでしょう。なにか被災地の役に立ったのでしょうか。
原発の被害状況がまだハッキリしない段階から、現地にボランティアが大挙押しかけました。メディアにはいいところばかり映っていましたが、多くは災害救助活動の未経験者。食料、宿泊所、ケガの手当てなど、「ボランティアスタッフへの対応」に追われた現地の声も無視できません。
被災者に共感するのは人として自然な感情でしょう。ですが一緒になって不安がり、慌て、とりあえず何かしないではいられない、よく知りもしないで首を突っ込む、意見を言う…そういう善意の発露なら、ないほうがマシです。
「そんな意見は冷たい!」と言われそうですが、当事者でないからこそ「冷たい頭」で判断すべきです。ことに介護職員の心得は、「クールヘッド・ウォームハート」というではありませんか。
実際、インターネットで情報を拡散した人々は、じゃあどうしたらいいか?を「冷たい頭」で考えていたのでしょうか。私の携帯電話にも、被災地情報のリツイート(引用を送信したもの)がたくさん入ってきました。しかし「そこに物資を送るために、どこの誰に連絡したらいいか?」に触れたものは一つもありません。ちょっと調べればわかることなのに(実際すぐわかりました)。
情報をコピーし拡散して「ハイ終わり」と、何かいいことをしたような気になっているだけなら、単刀直入に言って無意味です。情報によっては有害ですらあります。
逆に、「現地からの正確な情報が最重要だ」とクールヘッドで活動されている人もあります。東日本大震災時に東京電力の社員であったある男性は、当時の経験を活かし、災害が起きるたび被災地に現地入りして情報発信の方法や効果的なルールを伝える役割を続けています。調べてみるとこのような人はたくさんおられるのです。
また医療の世界からも、「避難所など生活環境が変わると悪影響がでる精神疾患」を鑑み、いち早く対応に乗り出した団体もあります。これも当を得た動きです。
正確な情報は、このように「専門知識をもって現場にいた人」からこそ得られるのではないでしょうか。
環境と本人の状況、この二つを「正確に」知らないと何の支援もできないのは、災害も介護も同じです。いくら「善意」があっても、「冷たい頭」がなければ力になれない、むしろ相手にとって迷惑にしかならないのは、介護職の皆さんならよくご存知の通りです。
「相手がどんな病気なのか知らずに、テキトウな薬を手渡す介護職員などいない」これなら誰でも納得してくれると思います。では「相手がどんな状況で何に困っているのかわからずに、未確認情報を拡散すること」はどうでしょう。同じくらい危険な行為ではないでしょうか?
介護職員が利用者さんに関する正確な情報を得るのに、どれだけ時間がかかるか、これも皆さんよくご存知の通りです。災害だって同じこと、焦っても慌ててもどうにもなりません。ウォームハート、「善意」の出番は、正確な情報のあとです。常にクールヘッドが先なのです。
災害は生活支援である介護に直結する問題です。今も熊本に限らず、全国に避難生活を送っている要介護者がたくさんいらっしゃることでしょう。介護職員でない人が対応するケースも多いと聞きます。
介護職員は障害や認知症について「専門知識をもって現場にいた」人、クールヘッドをもつ介護の専門職なのです。介護について正確な情報を発信できるのは、やはりなにをおいても介護職員。ことに非常時、少しでも知っていることがどれだけ重要か計り知れません。今回「正確な」発信が最重要であると再確認しました。
熊本の地震がこれ以上大きく広がらないように祈りながら…一方介護職員として、被害のなかった地域の人間として、「クールヘッド」で行動するよう心がけたいと思います。
追記
『ネットのデマ、テレビで放映。だまされないために』というような記事が某所に出ていたので読みました。インターネットでデマが発生し、SNSを通じて拡散する経緯が詳しく書いてあります。が、記事の最後の一文を見て私は我と我が目を疑いました。『ネットだけでなく、テレビ等で報道されているか確認すること』…この記者の方は、御自身が冒頭に書かれた事をハヤお忘れのようです。
失礼ながら記者の方のお名前はノートに控えさせて頂きました(苦笑)。だまされないためには、地道な努力が肝心なのです。