マンガでわかる 介護のキーワード
介護の常識は世間の非常識といわれることがありますが、介護現場で語られる言葉に違和感を覚える人もいるようです。
この連載では、こうした「介護の常識」をマンガで考えていきます。
- プロフィール梅熊 大介 (うめくま だいすけ)
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1980年生まれ、群馬県出身。
東京で漫画家アシスタントをしながら雑誌、ウェブにて作品を発表。2009年第6回マンサン漫画大賞(実業之日本社主催)佳作受賞。デジタルマンガ・コンテスト2012(デジタルマンガ協会主催)優秀賞受賞。9年間のアシスタント修業の後、32歳で介護職員となり、以後介護を中心とした企業広報マンガを執筆。2015年現在、所属する大起エンゼルヘルプのホームページに新規採用者向け介護マンガを連載。著書に『マンガ ボクは介護職員一年生』(宝島社、2015年)がある。
第2回 「できません」も仕事のうち
去る1月15日、バス事故としては過去30年で最悪の死傷者を出した「軽井沢スキーバス転落事故」。同19日にも福井県でバスが横転し、国土交通省は全国のバス会社の調査を開始、21日夜には「出発前の大型バス・抜き打ち監査」という異例の事態になりました。
軽井沢スキーバスについては、過熱気味なほど連日報道されておりますので、詳しい方も多いと思います。いわく、運転手さんが大型バス運転に慣れていなかった。いわく、法律で定められた料金より不法に安く運行していた。いわく、バス運行の予定や記録の乗務員台帳が用意されていなかった。などなど。
制度の不備、職員の経験不足、営業の杜撰さ、結果だけ聞くと「そりゃ起こるよ、事故…」と思わずにはおれません。一体、何が原因でこんな状態になったのでしょうか?
規制緩和、料金のダンピング、人員不足などが強く指摘されています。が、私はそれ以上に、なぜ現場の職員さんが「それはムリです」と言えなかったのかを考えてしまいます。
このバス事故の報道は、介護の職場問題に良く似ています。同じく命を預かる職場であり、規制緩和で事業所が増えても人員不足。職員の経験値には大きく個人差がある。介護は保険事業ですから不当なダンピングからはまぬがれていますが、給与は十分とはいえないのが現状です。状況によって現場の職員さんに大きな負担をかける場面がしばしばあり、事故はそういうとき起こってしまいます。
人員不足と経済的な逼迫から法で定めた決まりが守れなくなる。するとどこかでズル(法令違反)をするか、ムリ(危険な労働)をするかに追い込まれてしまいます。バス事故では様々なズルが報道され大問題になっていますが、「ムリ」のほうはどうだったのでしょうか。
ムリは身近にも溢れています。私もグループホームで働く中、ムリして倒れてしまった同僚を何人も見ました。職員を車椅子に乗せて病院まで走ったこともあります。
24時間、交代制の介護施設では、職員が一人休めば法定の職員配置数を割ってしまいます。休みの職員を呼び出したり、夜勤明けの職員にそのまま頑張ってもらうしかありません。忙しい同僚に迷惑をかけたくない。それに休めばその月の給与も減ってしまう。ついムリを押してしまう気持ち、よくわかります。
しかしやはりそれでも「できないことはできない」と言うべきです。ことに命を預かる仕事においては、「できませんでした」は通用しないからです。
子供のときから勉強でもスポーツでも「できない」は禁句。返ってくるのは決まり文句の「あきらめたらそこで試合終了だ」です。それが社会人になっても残っているのでしょうか。が、仕事は勉強やスポーツとは事情が違います。むしろ「できない」と言える訓練さえ必要なのではないでしょうか。言える職場が大事なのではないでしょうか。
あきらめなかったために大怪我をすること、珍しくありません。そもそも「諦める」は「あきらかにみる」が語源で「ムリなもんはムリ」という意味です。
制度は急には変えられません。人員も給料も、いきなり増えたりしません。どうぞ現場の職員さん、勇気をもって「それはムリです」「危険です、できません」と言ってください。すぐ実践できるのはそれだけです。
どうしても気を使ってしまう、ムリをしてしまう人もあります。私の職場では、そういう人には挨拶のように「今日は大丈夫?」と聞く習慣がありました。半分冗談ですが、ときたま「実はちょっと…」と体調不良を教えてくれることもありました。持病や金銭面など、言いにくいことも聞ける範囲で教えてもらっていました。「できません」を引き出してあげる環境も作れるはずです。
そしてその一言が、事故を防ぐ最後の防波堤です。
【追記】「できないことはできない」と言える、つまりは相談できる助け合える職場環境作りについては『マンガでわかる介護リーダーのしごと』(中央法規出版)第4講座に詳述されています。具体的な行動として「サンキュースマイルキャンペーン」を引用してみますと、
- 1、自分から挨拶をする
- 2、「ありがとう」をたくさん言う
- 3、仕事中は「さん」づけで、敬語で話す
- 4、相談には「真剣に」のる
- 5、自分1人で溜め込まず、任せる
これが「承認欲求が満たされる」組織風土につながり、何事も相談できるようになるとのこと(退職者が少ない職場の特徴でもあるそうです)。 リーダーに限らず、これなら明日から実践できそうですね。