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超高齢社会で求められる新たな医療

超高齢社会で求められる新たな医療

1. 人口動態と医療ニーズの変化

 近年の日本は、世界的に類を見ないスピードで高齢化が進展し、過去に経験のない超高齢社会を迎えています。平均寿命の延伸により、2040 年には 85 歳以上の人口が 1000 万人を超えると予測されており、このことは同時に、糖尿病や高血圧といった慢性疾患、がんや心疾患、そして認知症など長期にわたり医療や介護を必要とする高齢者の増加を意味しています。また、複数の慢性疾患を抱える高齢者も増加しており、医療・介護ニーズは多様化・複雑化し、それらの複合的なニーズへの対応が喫緊の課題となっています。
 このような状況のなか、医療現場では病院を中心とした治療優先の医療に加え、患者の生活の質(QOL)を重視した全人的な医療が求められるようになってきました。

2. 在宅医療と多職種連携

 このような状況において注目されているのが、住み慣れた地域で最期まで生活を継続できるよう支援する「在宅医療」です。在宅医療は、これまでの病院完結型医療から地域完結型医療への転換を象徴するものであり、患者の生命予後だけでなく QOL の向上を重視した医療提供体制です。つまり、これまでの「治す」という医療の役割に、患者の療養生活を「支える」という役割が求められるようになってきたのです。この「治し支える医療」は、病気の治療だけではなく、患者のLIFE(生命・生活・人生)全体を包括的に捉え、患者が望むQOLの向上を重視する医療です。
 在宅医療は、患者が住み慣れた地域や自宅で、可能な限り自分らしく、そして尊厳を保ちながら過ごせるよう、医師、看護師、薬剤師、リハビリテーション専門職、ケアマネジャー、管理栄養士、介護福祉士など、多様な専門職がそれぞれの専門性を活かし、連携・協働する多職種連携のもと行われます。これにより、患者さん一人ひとりのニーズに合わせた切れ目のない在宅ケアの提供が可能になります。

3. 地域包括ケアシステム:医療・介護・生活支援の一体化

 在宅医療を推進する上で欠かせないのが、地域包括ケアシステムです。これは、高齢者が住み慣れた地域で安心して生活を継続できるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援を一体的に提供する体制です。
 地域包括ケアシステムの実現には、地域住民の自助・互助の精神と、医療保険、介護保険などの社会保険システムによる共助、さらにはそれらでは対応ができない場合に公的財源でサービスが提供される公助が不可欠です。

4. 医療介護総合確保推進法:2025 年問題への対応

 2014 年に成立した医療介護総合確保推進法は、2025 年問題を見据えた医療提供体制の改革を目的としており、地域医療構想に基づき、各地域における医療機能の分化と連携を推進しています。また、医療・介護連携推進事業を通じて、在宅医療と在宅介護の連携強化を図っています。

* 正式名称は「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備に関する法律」

5. 在宅医療の現状と課題

在宅医療は医療資源の効率的な利用といったメリットがある一方で、解決すべき課題も存在します。
例えば、

  • ・医療従事者不足:特に、訪問診療を行う医師や訪問看護師の不足は深刻です。
  • ・地域格差:都市部と地方では、在宅医療の提供体制に格差があります。
  • ・24 時間対応体制の整備:緊急時の対応など、24 時間体制の整備が必要です。

などが挙げられます。

6. 今後の展望

 高齢社会が進む日本では、今後ますます在宅医療の重要性が高まっていきます。医療提供者側だけでなく、地域住民一人ひとりが在宅医療への理解を深め、地域全体で「治し支える医療」を支えていくことが重要です。
 質の高い在宅医療を提供するための医療従事者に対する専門的な研修、ICT や AI などのテクノロジーの活用、そして地域住民への在宅医療に関する正しい知識の普及などが今後さらに必要になってきます。
 高齢化が加速する日本において、在宅医療は、患者さんの尊厳を守り、その人らしい人生の最期を支えるために必要な医療提供のシステムです。地域包括ケアシステムの構築、多職種連携の強化、医療介護総合確保推進法に基づく医療提供体制改革など、様々な取り組みが進められていますが、更なる充実が求められます。
 在宅医療は、医療従事者だけでなく、地域全体で支えていくべきものです。それぞれの立場から積極的に関わり、より良い在宅医療 の未来を創造していくことが重要です。

もっと知りたい方に! おすすめ書籍

本記事の内容は、下記書籍の内容をもとに編集・作成しております。

『在宅医療―治し支える医療の概念と実践―』

 人口の高齢化による疾病構造の変化に伴い、これまでの「治す医療」から「治し支える医療」へ、医療の概念も変化している。本書は、日本の医療で今後ますます重要となる在宅医療について、その概念やあり方を体系的かつ詳細に解説する。