再録・誌上ケース検討会
このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。
第69回 知的障害をもつ母と子、うつ病の父の3人家族をどう支えていくか
(2006年2月号(2006年1月刊行)掲載)
スーパーバイザー
野中 猛
(プロフィールは下記)
事例提出者
Mさん(総合相談センター・コーディネーター・社会福祉士)
事例の概要
・クライアント
Tさん(51歳・女性)
・家族
夫(52歳)と長男(15歳・養護学校)との3人暮らし。夫は以前、うつ病で2年ほど家に閉じこもっていたことがある。長男は重度(療育手帳A)の知的障害をもつ。
15年ほど前、長女を川の事故で亡くしている(そのことで今も夫から責められている)。
・心身状況
Tさんには小児マヒ(弛緩性マヒ)と知的障害がある。手帳は身障手帳(上肢7級・下肢5級)と療育手帳Bをもっている。
・生活歴
隣県で生まれ育つ。高校1年生の時、養護学校へ転校。高校卒業後、更生訓練施設に入所。その後、洋裁学校に通い、1年ほど洋裁の仕事に就く。21歳で結婚。長女をもうけるが、事故で亡くす。その後、長男を出産。
・住宅環境
公営アパートの5階(エレベータが偶数階にしか止まらないため、6階から階段を降りる)。間取りは2DK。
・地域住民とのかかわり
近所づきあいはあまりない。階下から苦情あり。
・経済状況
夫の収入(家には6~7万円しか入れない)、Tさんの障害基礎年金、特別児童手当。借金がある(金額は不明)。
・主訴
・子育てに悩んでいる(夫は手伝ってくれない)。
・膝や腰の痛みがひどくなってきた。
・利用しているサービス
ホームヘルプサービス(長男に対して)、週1回1時間半
・事例提出者のアセスメント
生活のなかに生きがいや楽しみが見つけられないまま日々が過ぎている。夫は育児に参加せず、第一子を亡くした事故のことを折にふれ責められるなど、夫から認められていないことに不満を感じている。身体状況の悪化(アパートの階段昇降がつらい)に加え、子どもの世話に追われており、友人との交流も頻繁にはできない。本人はそうした状況を「仕方がない」と諦めているところがある。
洋裁の仕事をしていたこともあり、かつては子どもの服も自分で作っていたが、目や手足に負担がかかり、根気が続かないとのこと。しかし、就労経験もあり真面目な性格なので、軽作業に取り組むことは可能だと思われる。
昔の友達の話や就労していた頃の話になると生き生きとし、本人の秘めている力を感じた。
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プロフィール
野中 猛(のなか たけし)
1951年生まれ。弘前大学医学部卒業。藤代健生病院、代々木病院、みさと協立病院、埼玉県立精神保健総合センターを経て、日本福祉大学社会福祉学部教授。専攻は臨床精神医学、精神障害リハビリテーション、地域精神保健、精神分析学など。主な著書に『心の病 回復への道』(岩波新書)、『図説ケアマネジメント』『ケア会議の技術』『多職種連携の技術(アート)』(以上、中央法規出版)、『ソーシャルワーカーのための医学』(有斐閣)などがある。 2013年7月逝去。