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再録・誌上ケース検討会

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。


第57回 理解力に問題のある夫婦世帯への援助を考える
(2003年10月号(2003年9月刊行)掲載)

スーパーバイザー

奥川 幸子
(プロフィールは下記)

提出理由

 身体に障害があり、ひらがな・カタカナしか読み書きのできない妻と、自分の名前を書くのがやっとで、判断能力に問題があると思われる夫が、互いに助け合って生活をしてきた。健康状態、日常の家事、経済的にも問題を抱えるなか、さまざまな支援を行ってきたが、そのプロセスを振り返るとともに、今後の支援の方向性について検討を行いたい。

事例提出者

Ⅰさん(在宅介護支援センター・社会福祉士)

事例の概要

 夫:86歳。現住所にて出生。男ばかりの兄弟の三男として成長したが、義務教育も満足に受けておらず、読み書きもできない。幼い頃から多少知的障害があったように思われる。
 長く新聞配達の仕事をしていたが、配達した家がわからなくなったり、集金ができなかったりしたこともあったようだ。
 入院歴はないが、若い頃から低血圧気味で、貧血のような症状でよく倒れたらしい。
 白内障、腰痛のため通院しているが、薬の管理なども不十分で、少しよくなると1カ月以上通院しないこともある。ADLはほぼ自立。

 妻:78歳。他県にて出生。生活のため、9歳で奉公に出され、両親やきょうだいとの思い出はあまりない。夫同様、義務教育も満足でなく、ひらがな・カタカナの読み書きができる程度。金銭の計算などはできる。
 大人になってからは、旅館の下働きなど、職を転々とした。昭和30年頃、結婚。2女をもうける。働きの悪い夫に代わって、一家の生計を支え、2人の子どもを育てた。娘はともに成人し、嫁いでいる。あまり大きな病気をしたことはないが、20年前股関節炎を患い、60歳頃手術を受けたが、後遺症により歩行に障害が残った。現在はつかまり立ちが何とかできる程度。
 運動不足から肥満が進行し、さらに動けなくなるという悪循環になっている。
 収入は、夫婦ともに国民年金(老齢)受給。夫:24万円 妻:30万円。収入が少ないため、若いときに蓄えた預貯金を切り崩して生活してきた。

プロフィール

奥川 幸子(おくがわ さちこ)

対人援助職トレーナー。1972年東京学芸大学聾教育科卒業。東京都養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)で24年間、医療ソーシャルワーカーとして勤務。また、金沢大学医療技術短期大学部、立教大学、日本社会事業大学専門職大学院などで教鞭もとる。1997年より、さまざまな対人援助職に対するスーパーヴィジョン(個人とグループ対象)と研修会の講師(講義と演習)を中心に活動した。主な著書(および共編著)に『未知との遭遇~癒しとしての面接』(三輪書店)、『ビデオ・面接への招待』『スーパービジョンへの招待』『身体知と言語』(以上、中央法規出版)などがある。 2018年9月逝去。