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再録・誌上ケース検討会

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。


第51回 不全感の残る初回訪問を振り返り気持ちに添う援助技法を考える
(2003年4月号(2003年3月刊行)掲載)

スーパーバイザー

奥川 幸子
(プロフィールは下記)

事例提出者

Iさん(居宅介護支援事業所・看護師)

事例の概要

クライアント
 S氏、91歳、男性
紹介経路
 8月末、訪問看護事業所から「要介護認定を受け要介護5の認定が出ている利用者がいるので、相談にのっていただけないか」と事業所に連絡があり対応。家人(長女)と連絡をとり、当日の午後訪問した。
クライアントのプロフィール
 20代のとき膝を手術。以後、病気になったことはないとのこと。
 平成14年3月15日(~3月25日)、自宅で倒れ、入院。その後、在宅生活を希望し、約5カ月間、自宅での生活を続けていた。
 病名は確認できていない。内服薬はなし。エンシュアを1日に3本。発熱時、座薬の処方。
現在の状況
 訪問時の問いかけに対し返答もなく、「痛い」「水」と応えるのみで意思の確認ができない。
 要介護5。
生活歴
 数十年来この地域に暮らしており、真面目な事務員として定年まで勤めていた。結婚の時期は聞き取れていないが、5歳年下の妻と2人の子どもをもうけ、暮らしていた。
経済状況
 本人の年金と同居の長女の年金で生活。
家族や関係者の住宅状況
 本人の療養している部屋は、窓があるものの開くことはなく、荷物がたくさん置かれたたんすの上には薄黄色くなった埃が固まっていた。自宅に帰るにあたり、自費で購入した電動ベッドが畳の上に壁に付けた状態で置かれていた。
 家人が過ごす居間はすぐ隣にあり、声は聞こえるが、夜間はそれぞれ自分の部屋に入る。定期的な訪室(食事、1日に2回娘がおむつ交換)と、「水」「痛い」等の本人の訴えがある以外はあまり本人のところへは行かないとのこと。
 居間は本人の居室同様埃等が見られ、ペット用の場所が確保され、床は砂や埃で衛生的な環境とはいえなかった。

プロフィール

奥川 幸子(おくがわ さちこ)

対人援助職トレーナー。1972年東京学芸大学聾教育科卒業。東京都養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)で24年間、医療ソーシャルワーカーとして勤務。また、金沢大学医療技術短期大学部、立教大学、日本社会事業大学専門職大学院などで教鞭もとる。1997年より、さまざまな対人援助職に対するスーパーヴィジョン(個人とグループ対象)と研修会の講師(講義と演習)を中心に活動した。主な著書(および共編著)に『未知との遭遇~癒しとしての面接』(三輪書店)、『ビデオ・面接への招待』『スーパービジョンへの招待』『身体知と言語』(以上、中央法規出版)などがある。 2018年9月逝去。