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「生きる・暮らす・よりよく暮らす」を実現するための経済的支援

第4回:12府県462市町村における医療費助成の実態(調査結果)

日本福祉大学 青木聖久

 2021(令和3)年に実施した、12府県(愛知県、岐阜県、三重県、静岡県、長野県、山梨県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、和歌山県、兵庫県)における、精神障害者保健福祉手帳(以下、手帳)1級及び2級所持者に対する医療費助成の実態調査の結果(適用範囲)を紹介します。
 なお、本調査では、医療費助成の実施における、「所得制限等の適用条件」「一部負担金の有無」「支給方法(窓口無料、自動還付、償還払い等)」も調べました。ここでは、調査結果の全体像を示すことに主眼をおき、適用範囲のみを紹介したいと思います。ちなみに、462の市町村に対し、調査は郵送で行い、有効回答数が290(62.8%)というものでした。とりわけ、愛知県では92.6%の回答率となっています。

1.12府県の調査結果

手帳1級及び2級所持者に対する医療費助成(福祉医療)の適用範囲

 府県の定める要綱が、手帳1級及び2級所持者に対して、①精神科の通院、②精神科の入院、③精神科以外(一般科)の通院、④精神科以外(一般科)の入院というようにすべての範囲(以下、①~④の範囲)について対象としているのは岐阜県、山梨県、奈良県の3県でした。
 また、①~④の範囲のすべてではないにせよ、手帳1級及び2級所持者を対象としているのが愛知県(①精神科の通院、②精神科の入院)、長野県(①精神科の通院、③一般科の通院)、滋賀県(①精神科の通院)です。
 それ以外の府県には、手帳1級所持者についてのみ①~④の範囲を対象とする場合や、要綱がないという結果でした。

手帳1級及び2級所持者を対象に医療費助成の要綱等があったのは半数の6県

 したがって、部分的に対象とするものを含めれば、①~④の範囲について、手帳1級及び2級所持者を対象として要綱を定めているのは、12府県のうち半数の6県(岐阜県、山梨県、奈良県、愛知県、長野県、滋賀県)ということになります。
 なお、手帳1級所持者に対してのみ、①~④の範囲のすべて、あるいは、一部について要綱を定めているのは、三重県、静岡県、大阪府、和歌山県、兵庫県の5府県でした。

要綱等の定めは助かるものの、独自に市町村が基準を定めることは可能

 ただし、これらはあくまでも都道府県が要綱によって定めている場合にすぎません。都道府県が要綱を定めていれば、市町村が医療費助成を実施する場合に、その費用の半額を都道府県は補助することになります。
 だたし、要綱の定める範囲を超えて、市町村が独自に医療費助成を実施していることも決して珍しいことではありません。

2.市町村の調査結果

岐阜・山梨・奈良・愛知の市町村が、手帳1級及び2級所持者に対するすべての範囲での医療費助成を実施

 岐阜県、山梨県、奈良県では、県が要綱を定めていることもあり、すべての市町村が、①~④の範囲について、手帳1級及び2級所持者に対する医療費助成を実施しています。岐阜県の一部の市町村では、手帳3級所持者に対して、独自に医療費助成を実施しています。
 また、愛知県のすべての市町村が、①~④の範囲について、手帳1級及び2級所持者を対象に医療費助成を実施していました。手帳3級所持者に対して、医療費助成を実施しているところもあります。なお、愛知県には、一般科に対する医療費助成にかかる要綱がありません。したがって、市町村が全額を支出して、医療費助成を実施していることになります。
 したがって、岐阜県・山梨県・奈良県・愛知県の全市町村が①~④の範囲について、手帳1級及び2級所持者(市町村によっては3級所持者に対しても)に対する医療費助成を実施していることになります。

県の要綱等によらず手帳1級及び2級所持者に一部の市町村が医療費助成を実施

 長野県では、6割以上の市町村が、①~④の範囲について、手帳1級及び2級所持者を対象とする医療費助成を実施しています。手帳3級所持者に対して、医療費助成を実施している市町村も少なくありません。
 なお、長野県には、②精神科の入院、④精神科以外(一般科)の入院については、要綱に規定がありません。したがって、入院については市町村が全額を支出して、医療費助成を実施していることになります。
 また、長野県ほど多くはないものの、三重県、滋賀県、和歌山県、兵庫県の一部の市町村においても、①~④の範囲について、手帳1級及び2級所持者を対象とする医療費助成を実施していました。これらの県では、医療費助成にかかる要綱を定めていませんから、市町村の支出割合がより高いことになります。

支援者に伝えたいこと

 これらの調査結果をふまえ、ぜひとも、支援者に伝えたいことがあります。それは、市町村が医療費助成を実施していない場合であっても、単に「残念なこと」で終わらせないということです。そこで、以下の4点について提案します。

① 市町村や都道府県に問い合わせることは実践のひとつ
 医療費助成については、ソーシャルワーカー、市町村の福祉課の職員でも知らない場合が少なくありません。
 一方で、行政は、市民の声を無視することができません。行政機関に、極端にいえば、毎日のように医療費助成に関する問い合わせがあれば、検討課題のひとつとしてとりあげる可能性が出てくるかもしれません。
 まずは医療費助成について市町村に問い合わせ、必要に応じて、実現に向けた勉強会をしてもらえれば、とてもうれしいです。少なくとも、市町村に問い合わせるだけでも、ひとつの実践だといえるでしょう。

② 他の市町村、ほかの障害との比較検討
 ぜひ、ここまでに紹介した医療費助成の実態について、支援者同士で共有し、必要に応じて、行政等に伝えてください。また、ほかの障害に目を向けると、身体障害者手帳1・2級、療育手帳(自治体によっては、愛護手帳、愛の手帳)の重度判定区分(A、A1、1度、2度など名称はさまざま)所持者を対象とする医療費助成については、都道府県が要綱などを作成しているはずです。  自身の都道府県や市町村以外の自治体、ほかの障害と比較し、精神障害者保健福祉手帳1級及び2級所持者での可能性を探ってください。

③ 家族会の取り組み
 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)では、医療費助成を、最重要課題のひとつと位置づけています。それぞれの都道府県の連合会も同様です。ぜひ、みなさんが所属している職能団体等で情報を共有し、そのうえで、都道府県の家族会連合会と、意見交換から始めてください。

④ 医療費助成の意味と意義の明確化
 なぜ、医療費助成は意味があるのでしょうか。仮に実現すれば、どのような意義があるのでしょうか。いや、仮に実現しなくとも、きっと、その実現に向けたプロセスのなかに、貴重な意義が見出せることになるでしょう。
 そして、これらを吟味することで、精神障害がある人や家族の心情に対する理解が深まることになるはずです。