「生きる・暮らす・よりよく暮らす」を実現するための経済的支援
第3回:自治体独自の医療費助成―自己負担がゼロ、あるいは大幅に軽減されたなら
日本福祉大学 青木聖久
経済的支援の一つの側面が出費の軽減です。「出費」は、暮らしの多くの場面にかかわっています。「精神・発達障害がある人の経済的支援ガイドブック」では、人が生きるというレベルで必要な要素として、「医・衣・食・住」をあげ、人が暮らすというレベルで必要な要素として、「居・飾・職・仲」をあげています。
「医・衣・食・住」と「居・飾・職・仲」
まずは「医・衣・食・住」について少し解説をします。
精神障害がある人は疾患と障害が併存していることが多く、継続的な医療が欠かせません。これが「医」です。加えて、「生きる」には、衣服の「衣」、食べ物の「食」、住まいの「住」が不可欠です。
とはいうものの、「医・衣・食・住」は、暮らしの目標にはなりません。では、どのような要素が暮らしの目標になるのでしょうか。それが、「居・飾・職・仲」だと考えられます。安心できる居場所としての「居」、生活の彩り・飾り、生活の質の向上としての「飾」、さらには、生きがい、自己有用感につながる、職業(報酬を伴わないアンペイドワークを含めて)としての「職」、そして、暮らしを共感しあえる仲間としての「仲」です。
継続的な医療が安心して利用できれば
「医・衣・食・住」と「居・飾・職・仲」は、すべてが重要です。ただ、生きるレベルで不可欠な要素である「医」は、ややもすると、経済的な理由から医療機関の受診を躊躇してしまう状況にある人がいます。これを看過することはできません。そこで、力を発揮するのが、医療費助成だといえます。
そもそも医療費のしくみは、どのようになっているのでしょうか。例えば、精神科の外来に通院したとします。その際、実際に医療機関が保険適用できる医療費(医療機関の収入)が10,000円だとしても、患者は全額を支払うわけではありません。健康保険証や国民健康保険証などを持参すること(保険適用)によって、多くの場合、自己負担は3割の3,000円ですみます。それでも、通院が月に20回に及べば負担は60,000円となりますから、かなりの痛手です。
自立支援医療
そこで、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)に基づく「自立支援医療」(国の制度)を申請し、適用されれば、所得状況によって、負担は月額2,500円から総医療費の1割負担ですむことになります。先ほどのケースでいえば、月額60,000円が、2,500円ですめば、負担の大きな軽減になることがわかります。
ところが、大きな問題があります。それは、自立支援医療が、精神科の通院にしか適用されないということです。そのため、診療科の制限がなく、さらに、通院や入院にかかわらず、医療費助成を受けられるようにしたいと多くの人が願っているのです。
自治体の条例による医療費助成
とはいえ、入院や精神科以外の通院に対する費用を助成する国の制度はありません。そこで、自治体(市町村)が、「福祉医療」や「重度心身障害者医療費助成制度」といった名称で、条例によって実施しているのが医療費助成です。自治体の行う医療費助成には、4つの区分があります。それが、①精神科の通院、②精神科の入院、③精神科以外(一般科)の通院、④精神科以外(一般科)の入院です。
12府県の462市町村への医療費助成の実態調査
2021(令和3)年の秋に、❶精神障害者保健福祉手帳(以下、手帳)による、❷市町村独自の医療費助成の実態を調査しました。調査にあたり、全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)を通じて、医療費助成について先進的な取り組みを実施している県が4つ(山梨県、岐阜県、奈良県、愛知県)あることがわかりました。
そこで、調査の対象地域を、これら4県を含む中部甲信及び近畿の12府県、計462の市町村としました。調査対象を12府県462の市町村としたのは、医療費助成というしくみの到達すべきあり方を知るにあたって、一定の目標となるような自治体(都道府県・市町村)が含まれていることが望ましいと考えたからにほかなりません。
なぜ精神障害者保健福祉手帳1級・2級所持者にこだわるのか
医療費助成について、目指しているのは、手帳1級・2級所持者が、①~④の範囲の助成を受けられることです。では、なぜ手帳1級・2級所持者にこだわるのかを説明します。
2020(令和2)年度における手帳交付者数は1,180,269名で、その内訳は1級が128,216名(約11%)、2級が694,351名(約59%)、3級が357,702名(約30%)です注)。本来、手帳の等級に関係なく、医療費助成を受けられることが望まれるところですが、少なくとも、1級・2級の交付を受けた人が医療費助成の対象になれば、約7割がカバーされることになります。
医療費助成の実施主体は市町村なのに、なぜ都道府県の取り組みが重要なのか
一方、医療費助成は、都道府県がその実施にあたり、「要綱」を定めることで、市町村は医療費助成を実施した場合、基本的にその費用の2分の1について都道府県から補助を受けることができるというしくみです。
なお、地方公共団体が一定の決まりなどを制定する場合、①条例、②規則、③要綱という3つの種類(段階)があります。このうち、最も法的な強制及び法的効果を伴わないのが「要綱」とされています。市町村の医療費助成にあたり、都道府県が要綱を作成しているところが大半を占めているようです。
都道府県が要綱を定めているかどうかは、医療費助成の実現にあたり、市町村の財政面に大きな影響を及ぼします。なお、東京都や大阪府をはじめ、多くの都道府県が要綱を定めているものの、その多くは、手帳1級のみを対象にしています。
本来、都道府県の定める要綱において、手帳1級・2級所持者を対象としていることが望ましいといえます。
医療費助成の先進県の山梨県、岐阜県、奈良県
現在、私が知っている限り、①~④のすべて(手帳1級及び2級所持者に対する全診療科)を医療費助成の対象としている(要綱を定めている)都道府県は、山梨県、岐阜県、奈良県の3つです。
一方、都道府県が要綱を定めていない(都道府県による2分の1の補助がない)にもかかわらず、手帳1級及び2級所持者に対して、①~④のすべてを、医療費助成の対象としている市町村もあります。その調査の結果については、連載の第4回と第5回でお伝えします。
(アクセス日2023.6.28)