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保育とICT

保育にICTを活用するには?
子どもの遊びを動画で振り返る方法

 保育現場の業務改善や働き⽅改⾰に加えて、新型コロナウイルス感染症への対応から、保育現場でICTの導入が進んできました。それでは一体、どのような使われ方をしているのでしょうか。保育の質の向上という視点で考えた場合、有効にICTが活用されているのでしょうか。

1 ICTは保育に有効?

(1)園のICT活用の実態

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査研究事業「保育分野におけるICT の導入効果及び普及促進方策に関する調査研究報告書」令和5(2023)年3月によると、保育業務のうち、手書きや紙上でのやり取りのみで行っている割合は、以下のとおりです。
・登降園の管理…25.3%
・連絡帳の記入・やり取り…71.1%
 登降園については、管理システムを導入する園も多く、保護者にとってもスマートフォンから連絡ができるため、ICTの導入は伸びていることがうかがえます。反対に連絡帳は手書きでのやり取りの良さもあることから、ICTを活用していない園も多いようです。
 パソコンなどのICT機器については、職員室にパソコンが設置されている園は92.2%と高いのに対し、保育室への導入はパソコン35.3%、タブレット40.5%、スマートフォン40.9%と、全体の60%がクラスにICT機器が導入されていない実態がわかります。

子どもの成長にかかわる記録や計画のICT活用はおよそ50%前後。保育者がパソコンを自由に利用できる環境が望まれます

参考:保育とICTの調査結果(三菱UFJリサーチ&コンサルティング「保育分野におけるICT の導入効果及び普及促進方策に関する調査研究報告書」令和5(2023)年3月

2 ICTを保育に活用するには?

 ここまで、保育所等でのICT活用の実態をみてきました。導入率は高いものの、利用が限定的なことがわかりました。それでは、ここ数年増えてきたオンラインによる学会や研修会などから、園内研修へのICTの活用(例:オンライン公開保育)はどうなっているのでしょうか。

(1)園内研修の学びと楽しさ

 まずは、外部研修の受講(園外研修)をみてみましょう。「職員が受講する研修をオンラインで実施」している(つまり、オンライン研修を職員が受講している)園は、私立で77.2%、公立で61.5%といずれも高い利用率となっています。保育士等キャリアアップ研修が地域によってはオンライン・オンデマンド受講となり、必然的にオンラインによる研修を受講する機会や職員が増えたことも要因でしょう。
 園内研修へのICTの活用については、調査データをとることができませんでしたが、『ICTを使って保育を豊かに ワクワクがつながる&広がる28の実践』にあるように、現場レベルではさまざまな創意工夫がなされ、保育者の学びの向上に寄与しています。
 養成校においても、東洋大学のようにオンライン公開保育を定期的に主催し、全国どこからでも参加できるネットワークを広げています(東洋大学オンラインライブ保育講座)。

東洋大学オンラインライブ保育講座の案内チラシ

(2)ICTを活用した場合の園内研修のテーマ

 ICTを活用した研修の場合、テーマはどのようなものが考えられるのでしょうか。「ほいくis」の調査によると、ディスカッション(81.6%)、研修動画の視聴(60.5%)が多くなっています。また、公開保育が26.3%と比較的多くの園で実施されているのも、新型コロナウイルス感染症による副産物といえるのではないでしょうか。
 オンラインによるオンデマンド視聴であれば、時々のニーズに合わせた内容を視聴することができるのもICT活用のメリットといえます。

プロジェクターがあれば、他園の様子や自園の保育を複数の職員が共有・振り返る研修も可能となります

3 保育現場の動画を職員の振り返りに活かす

 これまで保育とICTについて考えてきましたが。補助金の活用などにより、園にはICT関連機器の導入が進んでいるものの、使われ方は限定的であることがわかりました。
 そこで、「ICTは保育の質の向上にさらに寄与できるのでは?」「自らの保育の可視化と振り返りにICTはより活かせるのでは?」という問いを立ててみたいと思います。

(1)保育の質とICT

 保育者の学びにICTをより活用するには、実践でのICTの活用→保育の可視化→振り返りという循環が効果的かと思われます。すでに園にはデジタルカメラなどが備わり、子どもたちの様子を撮影する習慣ができてきたと思われますので、同じカメラで動画を撮影してみれば、子どもの様子とそれに伴う保育者の動きを収めることができます。
 その動画を園内研修や日々の振り返りで流し、意見交換するだけでも、新たな視点で保育を見つめなおすことができます。

(2)可視化と振り返り オンラインによる公開保育の可能性

 この試みのカギは「可視化」と「振り返り」の循環にあるといえます。動画で保育を可視化しても、活かさなければ次第に収束してしまいます。「欠点探し」になるのでは? という危惧もありそうですが、まずは「良いところ探し」の視点で臨めば、振り返りが楽しくなるかもしれませんね。
 この考え方は、オンラインによる公開保育にも活かすことができます。まずは前述のとおり、全国で行われているオンライン公開保育を視聴し、自分たちの園でも開催可能かどうか検討してみましょう。保育者や保護者への説明・同意が必要のため、すぐに開催とはいかないかもしれませんが、1クラス30分程度でもよいので始めてみてはいかがでしょうか。

オンライン公開保育の様子。機器に精通する職員の有無も大切ですが、まずはデジタルカメラ1つでも開催できます

4 もっと知りたい方に おすすめの書籍

 最後に、中央法規出版の『動画で学ぶ保育における子どもの遊び 「遊び込む」ための保育者の援助のポイント』を紹介したいと思います。
 本書の詳細はこちらをご覧いただければと思いますが、これまで述べてきた保育現場の動画から何を学ぶか、どのように振り返りを行えばよいのかを、12園26の事例(動画)から学ぶ内容となっています。
 以下の動画では、著者の高橋健介先生自ら、新刊に込めた思いを語っていただいています。

 各事例にはQRコードが示されていて、15分程度の動画を見ながら、本書で遊びの展開や保育者のかかわりを理解していきます。
 ICTと一口にいっても、その活用はさまざまです。まずは自園のリソースを確認し、できることから始めてみましょう。

動画で学ぶ保育における子どもの遊び

「遊び込む」ための保育者の援助のポイント