ケアマネジャーの実践に活かすヒント集
本連載は、2007年に『ケアマネジメント実践ノート』として連載した内容をリニューアルして再掲するものです。あれから15年がたち私たちの実践には、変わったこともあれば、変わらずに大事なこともあります。
コロナ禍もあって、大変さが増すばかりのケアマネジャーの仕事ですが、大変さ以上の魅力がつまった仕事でもあります。「難しい……」を少しでも「面白い!」に変えていけるヒントをお伝えしていきたいと思いますので、最後までお付き合いくださいませ。
第22回 ステップアップ編(1)自立支援を考える
吉田光子
郡山ソーシャルワーカーズオフィス代表。ソーシャルワーカーとして病院、特養、老健、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所等に勤務した後、独立。個人・グループに対するスーパービジョンや各種研修の講師等を行う。
唐突ですが、介護保険の目的とはなんでしょうか? 今さら何を、と思われる方も多いでしょう。もちろん「自立支援」ですよね。
では、「自立」とはどういう意味なのでしょう。手元の辞書を引いてみると──「他の助けや支配なしに自分一人の力で物事を行うこと。ひとりだち。独立」。この意味からすると、いわゆる「非該当」でないと自立の定義に当てはまらないことになってしまいます。しかし、実際に皆さんが担当する利用者は、いずれかの要介護・要支援状態にあることがほとんどでしょう。
「自立支援」と「介護予防」
では、現実の「自立支援」とは何を意味するのでしょうか。普段何気なく使っている言葉ですが、あらためて考えてみるとなかなかの難問ですね。私は、「介護予防」とあわせて考えることが、それを理解する糸口になると思っています。つまり、要支援1の人でも要介護5の人でも、等しく「介護予防」も「自立支援」も可能だということです。
もう少し丁寧に説明しましょう。ある方が、今の能力を十二分に活用し、生活のなかで出来ることや自分で決定することを少しずつ増やしていくこと──少なくとも減らさないこと──これが「介護予防」であると私は思っています。そして、そのために利用者と共に考え、実行していくプロセスこそが「自立支援」なのです。
要支援1の利用者が通所リハビリを利用し、認定の更新時に非該当になるという図式が“自立”の例として挙げられたりしますね。では、自立した結果、通所リハビリが利用できなくなり、また機能が低下してしまったら、いったいこの利用者にとっては「介護予防」になったのでしょうか。これまでの支援は「自立支援」といえるのでしょうか?
事例で考えてみましょう。要支援1の認定が下りたAさんに対し、ケアマネジャーは通所リハを利用することで「生活のなかで安定して歩行できること」を目標として設定したとします。ここでまず大切なことは、このサービスの導入がAさんの生活全般にどのような影響を与えるかを見立てておくことです。これまでは転倒が怖くて、室内の移動も一人では控えていたところが、一人で自由に歩くことができれば、「近所の友人の家を訪ねることができるようになる。そのことが自信となって、やめてしまっていた趣味を再開する」など生活にプラスの変化が生じることが考えられますね。
サービスの利用とその効果が何をもたらすかも、検討しておくべきことのひとつです。通所リハに通うなかで、自分の身体機能の状態や日常生活における注意点が理解できたか。サービス利用時以外にできる(する)ことは何か。やってはいけないことは何か。Aさんが望む暮らし方に近づいたか。
そしてサービスを利用する上で最も大切なことは、サービスの利用形態をどう変えていくかについて検討することです。できることが増えていけば、当然サービスの必要度は低下します。しかし、もしAさんが具体的な場面(例えば友人の家の玄関から部屋へ上がる時など)での身体の使い方を覚えたい時などは、むしろサービス利用の回数を増やすことも必要になるかもしれません。具体的に、どんな時にどんな利用をするのかを考えておく必要があるのです。もちろん、サービスを利用した結果、要介護認定が「非該当」に変更される可能性についても検討しておきます。
「今」と「これから」を見据えた支援
上記の過程のすべてが「介護予防」を目的とした「自立支援」であると私は考えています。このような考え方に立てば、もしAさんが非該当になったときに今の状態を保てるようにすることも「介護予防」ですし、そのために介護保険サービス以外の活用を検討することは「自立支援」になるはずです。
サービス利用しか検討していない、すなわち「今をどう手当てするか」しか視野に入れていないならば、Aさんは「せっかく通所リハを利用して元気になったし、友達もたくさんできたのに、どうしてやめなくてはいけないのですか」とがっかりなさるでしょう。こうしたことは意欲の減退、ひいては機能低下を引き起こす可能性もあります。それは一次的な介護予防ができたとしても、自立支援にはなっていないのです。
Aさんを皆さんの担当している利用者に置き換えてみてください。似たようなケースが思い浮かびませんか? 「今」だけではなく、「これから」をいつも視野のなかに入れて、利用者と共に考えていきましょう。その道筋こそが、介護予防であり自立支援だと思うのです。
- 〔吉田光子先生の著作〕
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