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保育所等での不適切な保育に対する予防と対策

保育所等での不適切な保育に対する予防と対策

日々の保育に悩みはつきもの。今回は、不適切な保育を生まないために、すぐに実践できるスキルアップの具体例を多数紹介! 明日からの保育が変わるヒントが満載です。

目次

1 虐待防止ガイドイランとは?

 日本の保育現場では近年「不適切な保育」に対する懸念が高まり、令和5年5月には、以下、こども家庭庁から『保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン』(虐待防止ガイドライン)が発出されました。 これは、令和4年12月から令和5年2月にかけて行われた全国調査の結果、施設や自治体によって不適切な保育への対応にばらつきがみられたことを受けて策定されたものです。
 虐待防止ガイドラインでは、「不適切な保育」の定義を明確化し、「虐待等」と疑われる事案と定義しています。 具体的には、「虐待」に加えて「子どもの心身に有害な影響を与える行為」を含み、保育所等や自治体に求められる対応を整理しています。 注目すべき点は、従来の「指導する側、される側」という関係性から、保育所等と自治体が対等なパートナーとして、保育の質の向上を目指すという方向性が示されたことです。
 このガイドラインは、保育現場の負担軽減も考慮していて、保育士等はガイドラインの内容を理解し、日々の保育において子どもの権利と最善の利益を最優先に考え、より良い保育を目指していくことが求められています。

2 保育現場で何ができる?

 保育現場で不適切な保育を予防するには、保育士等のスキルアップとマインドセットの見直しが必要です。ここでは10個の方法を紹介します。

  • ・「根気よく」: 完食を目標にするのではなく、子どもが食事を楽しめる雰囲気作りや食育活動を通して、子どもの意欲を育むことが大切です。
  • ・「落ち着いて」: 保育者は時間に追われてあせることが多く、それが子どもに伝染してしまいます。深呼吸をしたり、落ち着いている自分をイメージしたり、余裕をもった時間設定をするなど、冷静さを保つことが重要です。
  • ・「演じる」: 子どもの興味を引くように、声のトーンや表情、間の使い方を工夫してみましょう。子どもの話を聞く姿勢を育むことにもつながります。
  • ・「問いかける」: 子どもが自分で考え、行動する力を育むために、「なぜだめなのか」「どうしたらいいのか」と問いかけ、一緒に考えることが大切です。
  • ・「環境設定」: 子どもが行動しやすい環境を整えることが重要です。例えば、走りたくなるような環境で「走らないで」と言うのではなく、走れる場所を設ける、トラブルが多いおもちゃの数を調整するなど、環境を見直してみましょう。
  • ・「共感」: 子どもの気持ちを理解し、「悲しいね」「悔しかったね」などと言葉にして共感することで、子どもは気持ちが落ち着き、次に進むことができます。
  • ・「肯定的な言葉」: 「〇〇しないで」ではなく、「〇〇しようね」「〇〇してね」など、肯定的な言葉で伝えるようにしましょう。
  • ・「小さな声」: 一斉に大きな声で指示するのではなく、一人ひとりに寄り添い、小さな声で話しかけることで、子どもの行動力や生活習慣を育むことができます。
  • ・「少しだけ」: 子どもの「やりたい!」という気持ちを尊重し、「少しだけなら」と認めてあげることで、子どもは満足感を得て、気持ちを切り替えやすくなります。
  • ・「こどもまんなか」: 大人の都合ではなく、子どもの権利を尊重し、「子どもにとってどうなのか」という視点で保育を考え直すことが大切です。

 これらのスキルは、日々の保育の中で意識して繰り返し使っていくことで身についていきます。また、園全体で共通理解を深め、チームとして取り組んでいくことが重要です。

3 予防に向けた園内研修のススメ

 不適切な保育を予防するために、日々の園内研修でできる具体的な方法として、ワークショップ形式でのトレーニングを紹介します。 このトレーニングは、一人で取り組むことで自己の保育を振り返り、チームで取り組むことでクラス運営の見直しや方向性の一致を図ることを目的としています。

 具体的なワークショップの例として、以下のような内容が挙げられています。

  • ・架空の保育士の言動を題材にしたケーススタディ: 架空の保育士の言動を客観的に分析し、何が望ましくないかを明確化します。さらに、その保育士が子どもの気持ちを理解し、より適切なかかわりをできるようになるためのアドバイスを考えます。 このケーススタディを通して、客観視する感覚を養い、保育を多角的に見直す機会が得られます。
  • ・受容的なかかわりの効果を体験するロールプレイング: 2人1組で子ども役と大人役を演じ、受容的・応答的なかかわりの効果を体感します。 これにより、子どもとの関係性構築や信頼関係における受容的なかかわりの重要性を理解することができます。
  • ・「コンプリートセンテンス」を使った伝言ゲーム: 「コンプリートセンテンス」(完結した文)を意識した話し方と、そうでない話し方で伝言ゲームを行い、その違いを体感します。 子どもにとってわかりやすい話し方を学ぶ良い機会になります。

 これらのワークショップは、前述の10個の具体的なスキルと関連づけて行うことで、より実践的なトレーニングになります。 また、ワークショップは一度行うだけでなく、繰り返し実施することで、保育士としての成長を促す効果も期待できます。

4 おすすめ書籍のご案内

 1~3の内容は、「10のスキルで防ぐ! 「不適切保育」脱却ハンドブック 園で役立つ知識とあの手・この手」(菊地奈津美・河合清美著、中央法規出版、2024年)にて詳しく紹介されています。本書ではその他にも、園内研修で活用できるコラムが複数紹介されています。 これらのコラムは、保育士が日々の保育の中で忘れがちな大切な視点を思い出させてくれます。例えば、「子どもの自由と保育におけるルール」や「メリハリのある言葉かけの重要性」「指示ではなく子どもとの“分かち合い”」などが挙げられます。
 これらのワークショップやコラムを通して、保育士は、不適切保育を未然に防ぐための具体的なスキルを習得するだけでなく、保育に対する意識や考え方を見直し、子どもたちの豊かな成長をサポートするための力を身につけることができます。

『10のスキルで防ぐ! 「不適切保育」脱却ハンドブック 園で役立つ知識とあの手・この手』

著者の菊地奈津美先生のご挨拶もご覧ください。