「不適切な保育」は防げる?子どもの権利から予防・解決の糸口を考える
「不適切な保育」は防げる?
子どもの権利から予防・解決の糸口を考える
- 目次
「不適切な保育」についてテレビや新聞などで報道される機会が増えました。なぜ、保育者がそのような行為に及んでしまうのでしょうか。どうすれば予防・解決につながるのでしょうか。
1.全国各地で相次いでいる不適切な保育と実態
「不適切な保育」がテレビや新聞で盛んに取り上げられるようになったのは、2022(令和4)年12月、静岡県の保育園で当時30代の元保育士らが園児への暴行容疑で逮捕された事件が一つのきっかけとされます。
- ・園児の頭をバインダーでたたき泣かせる
- ・棚に入った園児の足をつかんで引っ張りだし、足をつかみ宙づりにする
- ・午睡時、寝かしつけた園児に対し、「ご臨終です」と何度も発言
- ・日常的に特定の園児に対し、にらみつけ、声を荒らげ、ズボンを無理やりおろす
- ・園児の容姿をばかにした呼びかけ(ブス、デブなど)、暴言を浴びせる
- ・園児に対し、カッターナイフを見せ、脅す 等
上記は、不適切な保育として挙げられた例の一部です。耳を疑うような内容の数々、センセーショナルな報道などもあり、保育現場に注目が集まりました。
全国の保育施設で園児への「不適切な保育」が相次いだことを受けて、こども家庭庁は全国調査を行ったところ、2022(令和4)年4月から12月の間に、保育所では914件、保育施設全体では1316件、園児への「不適切な保育」が確認されました。
2.不適切な保育とは?
それでは改めて、不適切な保育とはどのような行為を指すのでしょうか。
厚生労働省が2021(令和3)年3月に公表した「不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き」(以下、手引き)では、以下の内容が「不適切な保育」として記されました。
①子ども一人一人の人格を尊重しない関わり
②物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ
③罰を与える・乱暴な関わり
④子ども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり
⑤差別的な関わり
これは、全国保育士会の「保育所・認定こども園等における人権擁護のためのセルフチェックリスト~「子どもを尊重する保育」のために~」(以下、保育士会チェックリスト)を参考にして、人権擁護の観点から「『良くない』と考えられるかかわり」の5つのカテゴリーを不適切な保育の具体的な行為類型として示したものになります。
保育士会チェックリストの①~⑤のカテゴリーの具体的な関わりの中には、不適切な保育とはいえないものも含まれていました。そのため、2023(令和5)年5月にこども家庭庁がまとめた「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)では、不適切な保育を「虐待等々疑われる事案」と定めました。
このガイドラインでは、園内で虐待などが疑われる事案が発生したときには、自治体に速やかに相談すること、相談・通報を受けた自治体は迅速に対応するとともに組織全体として情報を共有することなどが記されています。
3.子どもの権利をもつことの大切さ
そもそも、子どもの権利とは?
保育所保育指針解説でも、「子どもの人権に十分配慮するとともに、子ども一人一人の人格を尊重して保育を行わなければならない」「子どもの人権に配慮した保育になっているか、常に全職員で確認することが必要である」と示されています。保育を行ううえで「子どもの人権擁護」の視点をもつことは不可欠といえます。
不適切な保育の予防・解決を図るための1つとして、子どもの権利を尊重した保育を徹底することが挙げられます。そのためには、子どもの意見を聞くことが大切といえますが、その精神を貫いているものとして「子どもの権利条約」があります。条約に記された「子どもの権利」を学ぶことで、子どもを一人の人間として尊重することはどういうことかわかり、子どもの権利を共通言語として、“子どもの権利を大切にする保育”が実現できるでしょう。
子どもの権利を意識すると、保育のあり方が変わる
こども家庭庁の発足に伴い、「こども基本法」が2023(令和5)年4月に施行されました。日本で初めて「子どもの権利」について明記された子どもの最善の利益を守るための法律となります。法律の条文すべてを覚えるのは簡単ではありませんが、基本理念などポイントを押さえるだけでも、日々の保育で意識が働くようになるでしょう。
例えば、こども基本法第3条をみてみましょう(部分抜粋しています)。
こども基本法 第3条(基本理念)
こども施策は、次に掲げる事項を基本理念として行わなければならない。
- 三 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、自己に直接関係する
全ての事項に関して意見を表明する機会及び多様な社会的活動に参画する機会が確保されること。 - 四 全てのこどもについて、その年齢及び発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮されること。
4.不適切な保育を予防・解決するために子どもの権利を大切にしよう
子どもの権利条約、こども基本法の内容をベースとして、職場で“子どもの権利を大切にする保育”が浸透していくことで、自らの保育や同僚、上司などの言動を振り返ることもできるようになります。
例えば、午睡などの短い時間にコンパクトな研修を実施するなど、意識共有を図る取り組みを重ねることで、職員それぞれの考え方を知ることができるでしょう。自分はOKだと考えている子どもに対する言動が、人によってはNGと考えていることがわかるなど、無意識に行っている危うい保育について、共通認識を図ることができます。
不適切な保育について考えるとき、子どもの権利を考えることが、保育者自らの振り返りや園での意識共有ができ、職場環境を整えることにつながります。子どもたちの健やかな成長にもつながります。
例えば、基本的な生活習慣や遊びや活動の区分など、保育場面ごとにチェックリストを作成して、職場内で意識共有を図ったり、定期的に振り返ってお互いの保育がどうだったかを確認しあう仕組みを取り入れてもよいでしょう。
定期的に意見交換を行うことで、職員全員が子どもの権利を意識した保育に向き合うことができるようになります。チェックリストは、適宜、内容を更新してブラッシュアップできるとよいでしょう。日々の保育を、自分なりに考え、意見を交わすことで、保育者個人そして園組織についても保育の質が向上されることが期待できます。
2023(令和5)年12月には、「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」(以下、育ちビジョン)が公表されました。育ちビジョンに掲載されている「こどもまんなかチャート」からも、こどもをまんなかに置いて考えることが大事な視点だということが明らかです。
5.不適切な保育を知り、子どもの権利の視点をもって日々取り組もう
不適切な保育は、初期対応を誤ってしまうと園にとって多大な影響を及ぼすことになります。そうした事態に陥らないためには、まずは不適切な保育について知り、個人としてできることを考え、園としてこれまでの保育のあり方を見直す取り組みが重要となります。
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