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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第51回④
一般社団法人Vielfalt(フィールファルト) 代表理事 久保 亘さん
「多様性のある職場は生産性があがる」
だから、雇用する側の気持ちも変えていきたい

一般社団法人Vielfalt(フィールファルト) 代表理事
久保 亘
1961年生まれ。35年間以上にわたり日本・外資系のIT業界で、コンサルティング事業責任者、営業責任者を務める。日本企業には輝く人材と組織風土創生が急務であると痛感し、2018年に出身地の渋谷を拠点に組織の未来づくりを支援するコンサルティング会社渋谷ハンブルコンサルタンシー株式会社を設立。同時に、「誰もが自分らしい働き方をつくれる社会の実現」をビジョンに一般社団法人Vielfaltを設立。働きたくても働けない人への応援活動をおこなっている。一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク フェロー。

 取材・文 毛利マスミ

前回は、フィールファルトの活動について具体的におうかがいしました。今回も活動について引き続きおうかがいししつつ、「フィールファルト」のもつ意味などについてお聞きします。

―当事者が応援者とつながる「渋谷エールカフェ」、次に、社会とつながる「渋谷エールジョブシャドウイング」という流れできて、さらに社会を経験する機会を提供する「渋谷エールショートタイムジョブ」という活動をおこなっているとうかがっています。

 ショートタイムジョブというのは、東京大学の先端科学技術センターの先生による社会包摂システムの考えです。ひきこもりだけではないのですが、障がい者の方など、長時間働くことが得意ではない人たちがいるんです。雇用というと、1日8時間、休憩時間がプラスされて9時間とか拘束されますよね。それを、「15分単位でやってみませんか」という発想。短時間でいいから、まず仕事を経験してみよう、ということです。単純な手伝いではなく、自分がつくるものやサービスが世の中でよろこばれる、という体験をしてもらっています。
 私たちは最低賃金は支払いつつ、限られた労働時間で完成しきれない分は、我々プロが請け負うというシステムで「ショートタイムジョブ」事業をおこなっています。どんな新人だって勤めればお給料がもらえますよね。それが社会というものです。

―どのような仕事をおこなっているのでしょうか?

 例をあげると、渋谷区のこどもテーブルのホームページの運営をさせていただいています。渋谷区は、「ちがいをちからに変える街」をキーワードにダイバーシティとインクルージョン、渋谷に集まるすべての人の力をまちづくりの原動力とすることを目指しています。この理念と私たちの活動が合致して、仕事をしたくてもなかなかできない人たちに経験を積ませる場として、ホームページの運営をおこなっているんです。
 またIBMからは、IBMの社会貢献プログラムで、いつでも好きな時間に社会人スキルやITスキルを身につけることができるオンライン学習プログラムSkillsBuildを提供していただけることになりました。会員に登録してもらえると、無償で社会人としてのさまざまなスキルを身につけられるサービスもはじめています。
 実際にこのプログラムで学んだ後、web制作を始めた当事者もいて、今度は、当事者が当事者にwebサイト制作のノウハウを伝えるというプログラムも世田谷区社協様と組んで立ち上がっています。
 当事者は、自分がつくったものが企業のホームページとしてサイト上で見られるわけですから、満足感があります。仕事を続けるか続けないかは本人次第ではありますが、やってよかったと言ってくれる人も多くいます。
 ショートタイムジョブは、15分単位という話をしましたが、実際は、時間をきっちり測るわけではありません。「15分でもいいよ」「いつ辞めてもいいよ」というスタンスなんです。仕事だから、最後まで責任もってしっかりと仕上げなくてはいけない、というわけではないんです。

―フィールファルトの今後と、あらためて言葉の意味を教えてください。

 私の考えの基本には、「多様性のある職場は生産性があがる」があります。なので、まずは雇用する側の気持ちを変えるという活動もやっています。実際、ジョブシャドウイングを受け入れてくれた方々は、みなさん、ものすごいいい経験になったと言ってくださっています。お互いに刺激を与え合う場になっているんです。
 また、外資系で働いてきた経験からも、様々な背景をもつ人たちが集まって仕事をすることが、生産性を上げることを実感しています。

 今後は、少しずつでもいいので仲間を増やしていきたいですね。社会に疑問を感じて、一度社会から外れた経験をもつ人たちは、既存ではないものを生み出すパワーをもっています。もちろん、大小のちがいはありますが、そうした力をもった人を受け入れ、活躍してもらえるように、いかにサポートし応援できるかを常に考えています。
 フィールファルトとは、ドイツ語でダイバーシティの意味です。私はドイツの会社に勤めていたことがあるのですが、ドイツ人も日本人と似ていて、単一民族性の意識が高い人たちなんです。しかし一方、多様性にもこだわりが強く、サッカー用語に「フィールファルト・ストラテジー」というものがあります。外国移民や外国籍選手をチームに入れて、多様性をもって自分たちの力を発揮させるというプログラムを15年ぐらい前から進めているんです。
 日本人である私たちも、このフィールファルト・ストラテジーという考えを使えるのではないか。多様性は戦略として使えるし、社会として必要なシステムなのではないかと考えたんです。
 私たちは、活動を支援ではなく「応援」という形で考えています。活動名にはすべて「エール」と付いているのはそのためなんですよ。

下北沢本多劇場グループ総支配人の本田氏と当事者とのジョブシャドウイングの様子。

【取材を終えて】
久保さんの「多様性が生産性を上げる」との指摘に、旧態然とした価値感に凝り固まっている日本の現状こそが、経済を停滞させている元凶なのではないかと思いました。また、記事には書ききれませんでしたが、今後の展開として、メタバース(仮想空間)やアバターの活用といった話も出て、テクノロジーの進化で課題が逆に強みになる可能性があることにあらためて気づかされました。
取材中は、久保さんのお人柄をうかがわせる温かみあふれる語り口に引き込まれながらも、当事者に徹底的に寄り添う姿勢や信念を語る姿には、厳しさや洞察の深さを感じました。
【久田恵の視点】
数十年も前、「ひきこもる」若者の存在が顕在化した頃、私は仕事で取材に回り、彼らが人を避けたいのではなく、伝えたいことがたくさんある若者たちであることに驚きました。けれど、当時は彼らを社会に迎えるシステムがなく、つまりはVielfalt代表の久保亘さんのような方がいなかったわけで、それをなんと、残念なことだったろうと思うばかりです。

●インタビュー大募集
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