メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

介護や福祉の現場で働く人たちはもちろん、異業種で働く人たちのなかにも、福祉の世界で自分の想いを形にしたいと思っている人は、実はたくさんいます。そして、今、それを実現できるのが福祉の世界です。超高齢社会を迎え、これからますます必要とされるこの世界では、さまざまな発想や理想のもとに起業していく先達が大勢いるのです。そんな先達たちは、気持ちだけでも、経営だけでも成り立たたないこの世界で、どんな思いで、どんな方法で起業・トライしてきたのか、一か月にわたって話を聞いていきます。行政への対応や資金集めなど、知られざる苦労にも耳を傾けながら、理想を形にしてきた彼らの姿を追います。


●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃったら、
terada@chuohoki.co.jp
までご連絡ください。折り返し、連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ

花げし舎ホームページ:
http://hanagesisha.jimdo.com/

プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第46回①
任意団体「パレット」代表 瀬名香織さん
少しでも子育てを楽にして
楽しんでほしい!

瀬名香織(せなかおり)
任意団体「パレット」代表
会社員時代に、産業カウンセラー、社員研修講師などを経験。息子の子育てに悩んだことから、発達障害について学ぶ。2020年、発達が気になる子どもと親のためのオンライン講座「寺子屋EQBO」を立ち上げる。その後、思いに共感してくれたた仲間と、子どもが安心して学べる場所「パレット」を立ち上げ、さまざまな活動を展開中。

取材・文:石川未紀

-困りごとを抱えた子どもたちの支援をされているそうですね。

 はい。もともと、息子に発達障害がありまして、子育てにはかなり苦戦しておりました。私の息子に発達障害があることがわかってから、勉強し始めたことが大きなきっかけです。当時は発達障害についてそこまで詳しくなく、かかわり方も難しかったため、どんどん追い詰められてしまったんです。このままではいけないと、まずは私自身が勉強してみようと、かかわり方を教えてくれる講座を受けました。受講後、私が変わることで、息子も変化していきました。そんな経験をした後に、教える側にチャレンジできる機会があって、ペアレントトレーニングのトレーナーの仕事に就きました。その後、不登校傾向のある子の支援に力を入れたいと思い独立。発達が気になる子どもと親に向けたオンライン講座「寺子屋EQBO」を2020年に立ち上げました。

-どんな勉強をなさっていたのですか?

 発達科学と脳科学をメインに学びました。私は元々カウンセラーでしたので、心理学が得意分野なのですが、科学的な側面から学べたことはとても良かったです。そして、今も臨床心理士や作業療法士、ビジョントレーニング等の専門の先生から学び続けています。

-オンライン講座というのは画期的でしたね。

 そうですね。今ほど多くはなかったと思います。自分自身の経験からも、発達特性のある小さなお子さんがいると外出自体が難しい。オンラインなら、お母さん自身が出かけるために、メイクをしたり着替えたりしなくていい。子どもが不登校になって家を空けられなくても参加できるので、受講されるお母さんにとってもメリットは大きいんです。そこにコロナ感染の拡大があり、療育が休みになっておうち時間が増え、結果的にご相談も増えていったという経緯があります。私は、以前、会社員として働いていましたが、子育てが思うようにいかず、精神的にも肉体的にも追い詰められ、仕事にも家庭にも支障が出て辛い経験をしています。また、私自身も発達特性のある子を育てていくにあたって在宅での仕事を探していたこともあり、オンラインでの起業を決意しました。

 具体的には療育のアドバイスはもちろんですが、お母さん向けの講座では主に具体的な関わり方についてもお伝えしています。

 発達障害のお子さんを育てていると、「子どもの自立」に対しての不安が大きい。カウンセリングや企業での人材開発の経験もありますので、お子さんの進路や就職を見据えて、親は何ができるのか? また何をやめるべきなのか? などもお伝えしています。発達障害だけでなく、不登校や学校への行き渋りなど、子育てが難しいと感じているお母さんたちに向けて、心理学や脳科学、発達科学などの知識も含めて、少しでも子育てがしやすくなるように、お子さんへのかかわり方を実践的に練習しながら進めていきます。また、受講後も不定期ですが、フォローアップ勉強会などを開催し、「学んで終わり」にはしていません。

 私自身、どうかかわっていいのかわからずに子育てをしている時は、「普通の育児書は役に立たない」「私が育てられたように育てられない」というもどかしさ、ほかの子と違うように見える苦しさが常にありました。子どもをどこかで、変えようと思っていたのですね。でも、それでは変わりません。冒頭でも申しましたが、私が変わることで、息子が劇的に変化していったのを目の当たりにしました。今悩んでいる方には同じように体験し楽になっていただきたいと思っています。

-具体的にはどんな変化があったのでしょうか?

 よく、子どもをありのままに受け入れようと言いますね。でも、そんな余裕はないわけです。だから、無理に気持ちを変えようとせず、スキルとして行動を先に変えていくのです。表現ひとつで相手に伝わるか伝わらないか変わってきますよね。だから、本当ははらわた煮えくりかえっているのですが、言い方をいつもと変えてみよう、とか。そんなことをやっていくうちに、息子に伝わることがある。そうなると私もうれしくなって、また表現を変えてみようとチャレンジできる。結局、環境と対応次第なんだなということがわかってきたのです。息子は何も悪くなかった。当時、他害が多かった息子がみるみるやらなくなっていったのです。私自身が、どこかでほかの子と同じようにしたいという思いがあったのだと思います。けれども、渦中にあると、そういうことが見えなくなってしまうのです。私と同じように苦しんでいるお母さんたちに、スキルとしても学んでもらい、少しでも気持ちを楽にして子育てをしてもらいたい。独立してからは、行き渋りや不登校支援に力を入れて始めたのですが、息子が私の予想より早く1年生の3学期から不登校になりました。でも、葛藤も紆余曲折もありながらですが、毎日楽しく過ごせたんです。先に学んで知識もありましたし、不登校だった子が普通に社会に出て活躍していることも知っていたので、私自身が動揺せずに対応できたのは本当に良かったです。親が学んでおくと、子どもがどう転んでも、見守ることが出来ると実感しています。

-発達障害や不登校、HSC(Highly Sensitive Child)やジェンダーに悩む子どもたちのための居場所 任意団体「パレット」を2021年11月に立ち上げましたね。

 はい。実は個人の起業よりも、こちらの構想のほうが、私の中では先行していました。

-次回、その話を詳しく教えてください。ありがとうございました。

安心できる場があれば成長できる