福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第45回①
NPO法人ハイテンション サービス管理責任者 酒井 まゆみさん
元うたのおにいさんが率いるバンドで
「ロックンロールと福祉」を実践
酒井まゆみ(さかい まゆみ)
NPO法人ハイテンション サービス管理責任者 社会福祉士 介護福祉士
1979年生まれ。大学で心理学を専攻し、卒業後は障がい者支援施設(入所施設)に就職。3年務めた後、大学院に進学し、社会福祉士の資格を取得する。その後、「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親・小倉昌男が起こした障がい者の自立と社会参加の支援を目的としたスワンベーカリーフランチャイズ1号店と連携する社会福祉法人に就職。ヘルパー事業部に配属され、生活支援全般を担う。ハイテンション立ち上げにあたり、声をかけられて入社。生活介護事業所Jumpのサービス管理責任者とロックバンド「サルサガムテープ」のサックスを担当する。ハイテンションの理事長はNHK「おかあさんといっしょ」5代目うたのおにいさんを務めたミュージシャンかしわ哲。副理事長は、元ザ・ブルーハーツのドラマー梶原徹也。
取材・文:毛利マスミ
―ハイテンションは、 ミュージシャンのかしわ哲氏が中心となり、障がいのある人とともに立ち上げたバンド「サルサガムテープ」の活動を軸とした事業所とうかがいました。事業内容を教えてください。
ハイテンションで展開する事業には、生活介護事業所「Jump」、放課後等デイサービス「スローバラード」、居宅介護・重度訪問介護・移動支援事業「Love jets」があります。さらに今年4月からは、もう一つの生活介護事業所「カムカム!」も開所しました。
私は「Jump」のサービス管理責任者と、サルサガムテープのマネージャー的な役割も兼任しています。
サルサガムテープはハイテンションの原点となるバンドで、「Jump」のおもな活動として行っています。理事長を務めるかしわ哲が、1994年に障がいのある人たちと始めたバンドです。
副理事長は、ロックバンドの元ザ・ブルーハーツのドラマーの梶原徹也が務めています。
サルサガムテープを始めて17年間ほど経った頃、徐々に続けることの難しさをかしわが感じ始めたんだそうです。そして「バンド活動のこれから」を考えたときに「自分はバンドをやめても音楽を続けていくことができる。でも、皆さんは音楽をどうやって続けていくのか。やめなくてはいけない人もいるだろうし、それは無責任ではないか」という思いから、障害のある方々が音楽を仕事にできる形を目指して、立ち上げたのがNPO 法人ハイテンションです。2011年4月、震災直後の混乱のさなかに活動はスタートしました。
ロックンロールには、きちっとした何かの形があるわけではありません。「ありのままの君の表現を受け入れる」というロックンロールの姿勢=全肯定という意味で、ハイテンションでは私たちは「ロックンロール型福祉事業所」を、スローガン的に使っています。
同様に「ロックンロールな時をわかちあう」というフレーズも、「音楽やアート表現などで自分が自分のままでいられる瞬間をともに大事にしていこう」という意味で、使っています。
―ハイテンションでは、音楽以外の芸術活動にも取り組んでいらっしゃいます。どのようにして、活動の幅を広げていったのでしょうか?
サルサガムテープを主体とすることだけは決まっていましたが、ほかに何をするとかはほとんど決まってなくて、とにかく「みんなで集まって音楽をやる」というようなところからのスタートでした。
そして活動を続けていくうちに「絵も好きだったんだね」とか、「ダンスにも興味があるね」ということがわかってきました。さらにいつも「音楽を中心に前向きにイケイケ」という時間だけではなく、「静かにゆったりする時間も大事」「思いにふける時間も必要」ということにも思い至りました。利用者さんの姿から、気づきを得たんです。
それでハイテンション開設から2年後にアート活動を行うアトリエ「ロウテンション」を発足し、Jumpの斜め前の物件を新しく借りて拠点としました。「ロウ」というのは、低いテンションという意味ではなくて、「RAW=生の」という意味なんです。「ありのままの皆さんの表現をしてもらう場所」ということです。
さらに利用者さんが静かな時間を過ごせる部屋としても使える新物件アネックスも加えました。
利用者さんは「きょうは音楽をたくさんしよう」「絵を描きたい」「お茶を飲んでごろごろしたい」など、その日の気分で3ヶ所の拠点を行き来して、「自分らしい時間」を過ごしています。
ハイテンションの活動は利用者さんの興味関心とともに広がり、拠点も広がっています。一つの種から出た芽が膨らんで、さらに枝分かれして広がったというのがこの11年なんです。
―ありがとうございました。次回はサルサガムテープの立ち上げや活動についておうかがいします。
客席もステージも渾然一体となり、とにかく盛り上がるサルサガムテープのステージ。
アート活動を行うアトリエ「ロウテンション」での創作風景。
午前中は、楽器の練習やアネックスでのお茶会など、自分のペースで思い思いに過ごす。
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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館