福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第37回② 川添高志 ケアプロ株式会社/株式会社エイチ・ユウ・ジー 代表取締役
外出の手助けを必要とする人にダイレクトに届く
利用者の声からは多くの発見が!
ケアプロ株式会社/株式会社エイチ・ユウ・ジー 代表取締役
川添高志(かわぞえ たかし)
1982年生まれ。慶應義塾大学看護医療学部卒業。看護師・保健師。大学在学中に、米国MayoClinic研修。経営コンサルティング会社、東京大学病院を経て、2007年12月「ケアプロ」起業。「ワンコイン健診(現セルフ健康チェック)」をはじめ、訪問看護、サッカーナース等を展開。2020年「ドコケア」を開始。2021年5月、小児訪問看護・介護の「HUG」を事業譲受。日本在宅看護学会理事。
取材・文:石川未紀
―前回は、ドコケア立ち上げまでの経緯とその仕組みについて伺いました。
ドコケアは、これまでの「ご近所さんの助け合い」の精神と、新しいマッチングシステムが相まって生まれたものなのですね。
はい。実は、自分にできることがあるなら手伝いたい、手助けしたいと思っている人は世の中にたくさんいます。けれども、声をかけるのはどうかなと躊躇されている方は、とても多いのではないかと思っています。そういう意味でも、「ドコケア」のシステムなら、自分の空いている時間で誰かを助けることができます。もちろん副業としても成り立ちます。サポートする側が無理なく続けられるように選択肢を広げておけるという意味でも、シェアリングエコノミー、つまり支え手をシェアしておくというのは、意味があることだと考えています。
今回は、看護師や介護職といった専門職だけでなく、そうした資格を持たない方の登録も行っています。これも今回新しくチャレンジしたもののひとつです。
今、コロナ禍で航空業界やサービス業の方の副業が行われています。こうした方々はホスピタリティに強みがあります。また、航空業界やサービス業全体としても、高齢者の方や障害者の方たちにも楽しんでもらいたいと、様々な取り組みをしており、情報を得たいと思っています。ドコケアは医療や福祉の現場の学びにもなっているのです。
実際に、自由に旅行を楽しんでもらえるようにとキャビンアテンダントの方も登録されています。看護学生や大企業に勤めるサラリーマン、医療的ケアのある子どものお母さんにも登録いただいています。
―さまざまな背景を持った方が登録されていると、利用者の方のみならず、社会全体の意識も変わってきそうです。
専門職であっても、外出のサービスと病棟や在宅での看護とは全く違います。外出先で、どのタイミングで、どのように吸引をするのか、座った状態で首のポジショニングはどうやればいいのか、医療機器のバッテリーは十分なのかなど、出かけてみて初めて気づくことが多いと言います。専門職にとっても、外出サービスは経験値を上げる大きな体験となります。
また、通常の訪問看護ステーションは、平日の昼間の営業時間が多く、早朝や夕方、土日や祝日のニーズに応えられないことが多いのです。その隙間を埋める意味でも、このシステムは有効だと考えています。
登録する側も副業だから土日しか働けない、体力や家庭状況に鑑みて長時間は難しいという方もいらっしゃいます。子育て中だから日中数時間だけ働きたいという方も通院介助ならできますし、仕事の休みにあわせて、旅行や外出の援助ならできるという人もいます。
マッチングさえうまくいけば、もっと外出が容易になるケースはたくさんあると考えています。
現在は首都圏を中心に行っていますが、福岡や大阪などでも利用があります。過疎地域で、公共交通機関がないところでも、一人でもドコケア介助者がいればマッチングは可能だと考えています。
―実際に、利用された方で印象に残っている方はいらっしゃいますか?
ALSの方がいらしたのですが、農園旅行がしたいとおっしゃって、実際農園へ行かれました。大学時代に農学を学んでいたそうで、緑に囲まれ癒されたようでした。奥さんがあんなにいい笑顔を久しぶりに見たとおっしゃってくださり、ご本人もとても楽しんでおられました。この経験から、また旅行に行きたい、一泊で温泉も楽しみたいと意欲的になり、外出の力というものを感じました。
また、視覚障害のある大学生から、生活に必要なものを買いたいからサポートしてほしいという依頼がありました。その後、介助者から話を聞いたところ、枕を買いたいと言われた時も、目が見えないとさまざまな困難があるということに、現場に行って初めて気づいたと言います。いつもサポートしている内容とは全く違うからこそ気づくことはたくさんあると――。私自身、ソフトサービスがまだまだ充実していないのだと気づかされました。
一方、一億総ケアラー時代だとも実感しました。できる時間でできることを支えあう、それが必要な時代なんだと思っています。
―ありがとうございました。
一緒に出掛けることで、介助する側にも学びが……。
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