福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第36回➀ 松尾由理江 特定非営利活動法人 ガブリエル 代表理事
わが子を亡くした茫然自失の日々から
障がいのある人たちの余暇活動支援へ
特定非営利活動法人 ガブリエル 代表理事
松尾由理江(まつお ゆりえ)
1975年生まれ。「お母さんと子どもの笑顔のために 365日24時間安心安全に暮らせる地域創り」を掲げて、2019年に特定非営利活動法人ガブリエルを設立。現在は、ヘルパー事業・相談事業・デイサービスを3本の柱に、重度訪問介護、居宅介護支援事業、障害児相談支援、放課後等デイサービスなどを行っている。将来的には、子どもたちの卒業後に通える施設の設立も目指す。
取材・文:毛利マスミ
― 障がい児・者の福祉業界で働くきっかけを教えてください。
母が看護師だったこともあり、学生時代から興味をもっていました。でも夜勤もある看護師の仕事は、本当に忙しくて、子ども心に寂しい思いも抱えていました。私は山口出身なのですが、家がとても過保護で、「家から通える学校」というのが、進学の条件でした。それで、家から徒歩で通える保育科のある短大に進学したのですが、その学生時代の実習先での出来事が、私がこの道に入る直接的なきっかけになりました。
障害児・者の施設に実習に行った時のことです。自閉症の男の子のトイレ誘導をさせてもらいました。2~3時間おきに声がけして、トイレに誘うのですが、なかなかうまくいかなくて。でも、実習の最終日にトイレに座ってもらったら、しっかりとおしっこが出たんです。それが本当にうれしくて、担当の先生に「トイレでおしっこできました!」と報告したら、その先生も一緒に泣いて喜んでくれたんです。
健常な子どもたちは、大人のある程度の見守りがあれば、のびのびと自分で育っていけます。一方、障がいのある子どもたちは、手をかけ、目をかけてあげないと、命さえも脅かされてしまう存在です。私は実習先での経験で、そこに関わらせてもらうありがたさとやりがいを強烈に感じて、「この道に決めた。私もここで働きたい」と心を決めました。
それで、学生時代からボランティアを続けて関係を保ち、新卒時には残念ながら求人がなかったものの、その後無事、その施設に勤めることができました。
ところがやがて、もっと何かできることがあるのではないか、という思いがふつふつと湧いてきて、海外青年協力隊に応募。障害児支援のためにフィジーに行くことが決まっていたのですが……。ここで、なんと妊娠していることがわかったんです。それで、できちゃった結婚をしました。
さらに直後に旦那さんの仕事が東京に決まったこともあり、故郷の山口から東京に引っ越して、新しい生活が始まりました。24歳の時のことです。
―東京では、子育てに専念していたのでしょうか?
東京では、目黒の療育機関に勤めました。
私は4人の子の母親でもありますが、じつは3人目の子どもを亡くしています。出産直前になり、エコー検査で「肺がないよ」と突然告げられたんです。横隔膜ヘルニアで、通常の14%ぐらいしか肺が育っていませんでした。
それで、すぐに入院ということになったのですが、ドクターからは、そーっとお腹から取り出して、産声を出さずに手術をすれば大丈夫と言われていました。でも、結果として、子どもは生後2日で亡くなりました。
仕事は順調でやりがいのあるものでしたが、子どもの死後、私は何もすることができなくなって、退職。家に引きこもる生活になってしまいました。でも、そうした生活のなかで、療育にきていた子のお母さんから「もう一度、仕事をしてみたら?」と声をかけていただきました。そして、その声が後押しとなって、NPO法人の地域活動支援センターで働くことを決めました。
地域活動支援センターというのは、余暇活動が難しい障がいのある人たちに、日中の活動を提供する場で、重度のお子さんや知的障がいの方など、障がいを問わず、様々な方が利用される施設です。ここで11年間、施設長、管理者、相談員、現場もふくめ、たくさんの経験をさせていただきました。
―ありがとうございました。次回はNPO立ち上げまでの道のりや理由についてお伺いします。
ガブリエルでのランチの様子。おしゃべりをしながら、ゆっくりとランチタイムを楽しむ。
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- 2021年3月にオープンしたばかりの施設です。「お母さんと子どもの笑顔」をつくる活動にご賛同いただけましたら、ご支援を賜りますようどうぞよろしくお願いいたします。
寄付先・・三井住友銀行
普通 7321020
口座名 特定非営利活動法人 ガブリエル
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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
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花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館