福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第34回④ 前田哲平 株式会社コワードローブ 代表
情報を集約する場所づくりをしながら
それを社会へ積極的に発信していきたい
株式会社コワードローブ 代表
前田哲平(まえだ てっぺい)
1975年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、銀行勤務を経て、2000年 株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社。2018年から2020年の3年間に、800人を超える障害や病気を抱える人々に服についてヒアリングを実施。2020年9月にユニクロが販売した前開きインナー商品開発プロジェクトを主導。2021年 株式会社コワードローブを設立。ユニバーサルマナー検定2級取得。
取材・文:石川未紀
──前回は、現在の取り組みとその思いについて伺いました。
──誰でも、気軽に洋服選びができるといいですね。
それぞれ人によって洋服に対する考え方は違いますね。僕個人は、ものすごく個性的でおしゃれな服を着たいというわけではなくて、身ぎれいで、着ていて楽なものがいいと感じています。洋服選びや、着脱にお金も時間もそれほどかけなくていいというタイプです。もちろん、おしゃれには常にこだわりたいという人もいるでしょう。一方、センスが悪いとは思われたくない、清潔感がある服を着たいという、「まったくこだわらないわけではないが、そこまでおしゃれでもない」という人は、実は多くいるのだと思っています。コロナで家にいる時間が増えて、今は楽で、着心地がいいものが着られていますね。世の中のファッションも以前に比べると、そうした視点で作られたものが増えている気がしています。
もちろんハレの日は特別なおしゃれを楽しみたいという方も多いかもしれませんが、病気や障害のある方々のニーズもまた様々です。オーダーで自分の思い通りの服を着たいというのと、オーダーでしか着られる服がないというのは大きな差があります。ふつうの服をちょっとした工夫で着られたら、かえっておしゃれの選択肢も増えて、気持ちとしても、経済的にも負担は軽くなるのではないでしょうか。
障害のある方のなかには、ほかのことにも時間がかかるので、着脱には時間がかかる洋服は避けたいという方がいます。また、障害児の方の家族の方にとっては、洗い替えで服がよれたり傷んだりしないものがいいという方もいます。そうした情報は別に障害があってもなくても、知っておきたい情報ですね。普通の人だって、時間がないときにパっと着られる服がいいという人も多いでしょう。洗濯に強い洋服は、子育て中の方にとっては有益な情報ですね。障害は特別というふうに思ってしまいがちですが、実は特別なことではなく、そうした情報は多くの人が享受できるものがあるということです。
企業というのは、どうしても自社のブラントイメージを出すときに、デザインや色で勝負したいので、そこを推してくる場合が多く、こうした情報を前面に出すことがあまりできません。ですから、そういう部分の情報をこのサイトで発信していければと思っています。
──今後の展望を聞かせてください。
サイトの情報を充実させて多くの人にその情報を届けることは今後も続けていきますが、もう一つ、誰もが気軽に洋服選びができる世の中作りを加速するための別の手段として、新しいお直しサービスを作ろうと考えています。少し手を加えれば着られる服はたくさんあります。着たい服を選んでいただいて、そのまま着るのが難しい場合は、手直しをする。そんなお直しを気軽にオーダーできる場所が今の世の中にないので、僕が作ります。
あとは、前回にもお話しましたが、企業の方へ向けても情報発信したいですね。こうした困難を抱えている人たちのことを少し知っていただくだけで、ものづくりへのヒントとなります。気づくきっかけさえあれば、企業のものづくりの姿勢が変わってくると思っています。企業の人たちとも情報を共有して、ものづくりの方向性を変えていきたいですね。
先日は、NHK Eテレのバリバラの番組制作などにもかかわらせていただきました。今後も、イベントやこうした企画などへのコンサルティングなどもしていきたいと思います。
──ありがとうございました。期待しています。
お直しサービス『キヤスク』構想
- 【インタビューを終えて】
- 着眼点が新鮮でした。当たり前のことだけれど、当たり前にできていない、そこに注目し、情報を収集して整理して提示する。そのことで多くの人が助かります。まっすぐな気持ちで、真摯に取り組む姿勢にも、心打たれました。洋服を通して、誰にとっても生きやすい社会へと推し進めてくれると期待しています。
- 【久田恵の視点】
- 前田さんが立ち上げた会社、コワードローブの理念に目を開かれますね、
経済成長を支える大量生産大量消費の流れがついに変わってくる、そんな予感さえ抱きます。具体的で、リアルで、多様な消費者のニーズにきめ細かな優しい目が向けられる、人を幸せにするファッションは? そもそも商品とは何なのか? という原点を改めて考えさせられてしまいました。
- 前回までのお話
① 洋服に不自由を感じている 障害や病気の方々の悩みを理解したかった
② 誰でも普通に服を選べる社会にしたい! 「子ども用ボディスーツ」開発へ
③ 誰でも自由に洋服を選んで着られる 「時代をめざす
●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。
「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館