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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

介護や福祉の現場で働く人たちはもちろん、異業種で働く人たちのなかにも、福祉の世界で自分の想いを形にしたいと思っている人は、実はたくさんいます。そして、今、それを実現できるのが福祉の世界です。超高齢社会を迎え、これからますます必要とされるこの世界では、さまざまな発想や理想のもとに起業していく先達が大勢いるのです。そんな先達たちは、気持ちだけでも、経営だけでも成り立たたないこの世界で、どんな思いで、どんな方法で起業・トライしてきたのか、一か月にわたって話を聞いていきます。行政への対応や資金集めなど、知られざる苦労にも耳を傾けながら、理想を形にしてきた彼らの姿を追います。


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プロフィール久田恵の主宰する編集プロダクション「花げし舎」チームが、各地で取材を進めていきます。
久田 恵(ひさだ めぐみ)

北海道室蘭市生まれ。1990年『フイリッピーナを愛した男たち』(文藝春秋)で、第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
著書に『ニッポン貧困最前線-ケースワーカーと呼ばれる人々』(文藝春秋・文庫)、『シクスティーズの日々』(朝日新聞社)など。現在、読売新聞「人生案内」の回答者、現在、産経新聞にてエッセイを連載中。

第27 回② 並木悠造 福祉タクシーなみき ドライバー
1台約300万円の福祉車両を購入。
最初は道を覚えることからスタート

福祉タクシーなみき ドライバー
並木 悠造(なみき ゆうぞう)
1947年生まれ。障がいのある人たちや高齢者がもっと自由で気軽に病院に行ったり遊びに行ったりできるようにと、定年を機に福祉タクシーを起業。長年、特別支援学校で教諭を勤めた経験を活かして、長男と共にハンドルを握る。

取材・文:毛利マスミ


前回は、福祉タクシー事業を立ち上げたきっかけをお伺いしました。今回は、立ち上げの費用や運営の実際についてお聞きします。

──福祉タクシー事業を始めるにあたっての準備を教えてください。

 営業には国の認可が必要なので、書類を準備する必要があります。前回もお話ししましたが、私の場合はまずは二種免許の取得を進めつつ、NPO法人日本福祉タクシー協会に相談をすることから始めました。起業を支援してくれる団体は他に、株式会社介護タクシー協会などがあります。
 もちろんこうした支援を受けなくても、陸運局に出向いて質問すれば色々と教えてもらえたのかもしれませんが、当時はそこまで思い至りませんでした。

 書類作成は1〜2週間でできましたが、申請から認可が下りるまでにはさらに2〜3ヶ月かかったので、その間は、開業のための車両の準備を進めていました。
 車は各自動車メーカーに発注すれば、福祉車両を作ってもらうことができます。私の場合は、1台約300万円で車椅子対応の車両を準備することができました。
 陸運局の許可には、車のボディに屋号を表示、車椅子が載る装置、メーターがついている、運転手の名前、認可証の表示などが分かる写真が必要になるなどの他、細かな仕様があります。

 実際に営業を始めてみると、会計のための小銭はいくらぐらい用意したらいいんだろうとか、本当に初歩的なことから手探りの門出でしたね。

──顧客の管理はどのように行っているのでしょうか。

 福祉タクシーは、普通のタクシーとは異なり完全予約制です。顧客管理のために個人ファイルを作って、利用日や地図、特別な配慮などを記入しておきます。また、家の場所は地図上ではここだが、車の乗り降りにはここが便利といった特記事項も大切になります。
 また、住所だけでどこでも行かなくてはいけないので、事前の準備は欠かせません。今はカーナビもずいぶん性能が良くなりましたが、開業当初はそれほどではなく苦労しました。予約が入るとパソコンで地図を印刷して経路を検討し、前日にはバイクで現地を訪れて、迎車や降車する場所に駐車スペースがあるかどうかの下見は欠かせませんでした。

 今も、カーナビだと幹線道路をメインに案内するので、裏道をうまく活用して渋滞に巻き込まれないようにお客様を安全にお届けできるように工夫しています。通院で利用される方も多いですし、時間通りにお迎えに行き、目的地まで送り届けることはとても大事なことなんです。
 最初の頃は道を覚えるのが本当に大変でした。今でも、お客様をお届けした帰り道に「この道はどこにつながっているんだろう」と回り道をして新たな道の開拓を続けています。

──開業当初の顧客開拓はどのように進めたのでしょうか。

 まずは、手数料無料で福祉車両の配車サービスをするNPO法人そとでる(世田谷区福祉移動支援センター)に登録しました。登録しておくと、メールで「こういうお客さんがいるけどいかがですか?」という具合に連絡が来るんです。それでこちらの予定が空いていれば「いいですよ」と返信をするというシステムです。それで、たまたまですが、そこにかつての教え子が働いていたんです。「並木先生だ!」ということで、親しくなって仕事も円滑に進めることができました。
 他にも、以前の教え子が頼んでくるケースも多いですね。あとは病院に送りにいった際に病院の方と仲良くなって口コミでお客さんを紹介していただくこともありました。本来は、もっと営業しないといけないんだと思いますが、幸いなことに創業時からそうした人々に助けられています。他の同業者の方の話を聞くと、顧客開拓には苦労なさっているということはよく聞きます。

──お客様は、主にどのような理由で福祉タクシーを利用されているのでしょうか。

 通院のためのご利用が一番多いです。あとは、ショートステイの送迎と買い物や遊びに行くとかでしょうか。それと病院関係だと転院のためにご利用される方も多いです。
 以前は月に100件くらい予約が入り、息子と私がフル稼働で動いていましたが、今は60〜70件といったところです。最近は、少しは人が動くようになってきましたが、コロナ渦前に比べるとみなさんが遊びに行ったりする機会は減っていますね。
 でも、例えば今日は息子が動いているんですが、「ポニーに乗りたいから連れて行って欲しい」というお客さんを乗せて行っています。少しずつ、お出かけも再開している感じもします。

──ありがとうございました。次回は、福祉タクシーを起業する前の教員時代についてお伺いします。