メニュー(閉じる)
閉じる

ここから本文です

福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第25回➀ 奥山梨衣「SKIP&CLAP」代表
お出かけしたくなるような吸引器バッグがない!

「SKIP&CLAP」代表
奥山梨衣(おくやまりえ)
大学卒業後、大手繊維メーカー会社アパレル部門にてCAD技術指導。2006年に長男出産、育児に専念するため退社。2018年医療的ケア児の生活をサポートする「SKIP&CLAP」を立ち上げ。吸引器専用バッグを開発、特許取得。ネットショップにて販売開始。2019年地域の医療的ケア児とその家族のためのサロン「SKIP CAFÉ」開設。2020年 第8回京都女性起業家賞 優勝 最優秀賞受賞。


取材・文:石川未紀


──吸引器専用のバッグを作ろうと思われたのは、息子さんのことがきっかけだと伺いました。

 はい。2006年に生まれた長男は、CFC症候群という障がいがありました。今でも寝たきりで全介助が必要です。それまでは大手繊維メーカーに勤めていたのですが、息子の状態が落ち着かず、子育てに専念するため退職しました。その後、次男、三男が誕生して、本当にあわただしく、過ごしていました。2012年に、長男がRSウィルスに感染し、緊急気管切開が必要な状態になり、手術。現在、医療的ケアが必要なのは、胃ろうによる栄養摂取と、気管切開による吸引です。吸引は、1日に100回を超える日もあります。

──医療的ケアのあるお子さんがいらっしゃるだけでも、寝る間もないほど大変だと思いますが、きょうだい児の方がいらしたら、息つく暇もないのではないでしょうか?

 確かに、次男、三男の授乳時期は、授乳中に長男のベッドわきにとりつけてあるアラームがなり、両手に抱っこしても足らないというような、目まぐるしい日常でした。
 今も、夜間は、夫と交代で長男を看ています。それでも、次男、三男は0歳児から保育園に通い、長男も学校へ通うようになって、少し日中の時間が持てるようになりました。 私たちが住んでいる地区の福祉が充実していたので、その点では恵まれていたと思います。医療的ケアができるヘルパーさんが日曜以外は毎日来てくださり、学校のある日は、登校までの準備をお願いしています。夕方には入浴を手伝ってくれたり、注入、それにまつわる片付けなどもしてくれます。自治体によっては、なかなかそうはいかない、という声も聞きますので、その点ではよかったですね。学校についても、医療的ケア児に対する対応が進んでいたので、現在でも親の付き添いや学校待機が必要なところもあるのですが、入学後、一週間ほどの付き添い期間のみで、親子分離ができました。

──少しの時間とはいえ、ご自身の時間を持つことができたのですね。それで、吸引器バックを作って販売しようと思われたのですか?

 いいえ。実は起業しようとか、販売しようというより、使っている吸引器バッグの使い勝手をもっといいものにしたいというのがきっかけでした。
 最初に吸引器を購入した時に、一応、専用バッグはあったのですが、まず、デザインが「持ってお出かけしたい」と思えるものではありませんでした。いかにも医療機器という感じで、温かみがなく、お出かけに必要な物品がうまく入りませんでした。おそらく、これまで気管切開をしている人が、外出するということを想定していなかったのでしょう。吸引器だけを持ち運べればいいのではなく、吸引に必要なカテーテルや消毒液、アルコール綿、精製水、手袋などを入れるスペースも必要です。また、吸引が必要な方の状態によって、必要な物品が少しずつ違います。でも、そういうことを想定して作られていませんでした。また、蓋を開け閉めするのにも手間がかかりました。
 「誰か、気づいて作ってくれるんじゃないか」「きっといいものもでてくるだろう」と最初こそ、期待していたのですが、なかなか出てこない。既成のカバンもいろいろ試しましたが、どれもしっくりこない。「だったら自分で作るしかないんじゃないか」、と思ったのが始まりなんです。
 長男が気管切開をしたのが2012年。その後、2014年くらいから構想を練り始め、まずは自分が使用するバッグをつくりました。そして、2018年に医療的ケア児の生活をサポートするSKIP&CLAPを立ち上げたのです。

──ありがとうございました。
次回は、吸引器バッグの製作販売に至るまでの過程を伺います。

家族でのお出かけも楽しい気分で

●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。

花げし舎ロゴ
100歳時代の新しい介護哲学

「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます

本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。

花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館