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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第22回④ 太田恵理子「おやこ支援室ゆずりは」代表
「自分がやるべきこと」という使命感を持って
このノウハウを全国に広めたい

「おやこ支援室ゆずりは」代表
太田恵理子(おおた  えりこ)
1986年徳島県生まれ。大学卒業後、機械メーカーに就職。息子さんに障害があり、保育園に入れなかったことを機に、「おやこ支援室ゆずりは」立ち上げを決意。2019年4月に開設。現在、「重症心身障害児・医療的ケア児支援事業所」「起業家支援型放課後等デイサービス」も開設準備中。


取材・文:石川未紀


── 前回は、オンラインでの療育の在り方など、新しい手法の運営について伺いました。

──ほかにも、新しくチャレンジされていることはありますか。

 はい。それは私が個別のリハビリに通っていた当時から考えていたことですが、「重症心身障害児・医療的ケア児支援事業所」の開設です。医学の進歩によって、今、たくさんの新生児たちの命が救われています。その一方で、医療的ケア(経管栄養や痰吸引など)児も増えています。こうした子どもたちの居場所はまだまだ確保されていません。
 家族、特に母親の負担は大きいですし、必要な療育も充分に受けられていない。療育に通っている当時、医療的ケアのある重症の障がい児のママさんから、いろいろな悩みを聞き、その当時から、いずれはそうした子どもたちの事業所を立ち上げたいと考えていました。

──全国的にも医療的ケアのあるお子さんは増えていますね。

 はい。それでも開設にあたっては、人工呼吸器をつけているお子さんもいるでしょうし、急変することもある。自分にそんな大変なことができるのだろうか、と逡巡し、なかなか前にすすめませんでした。実は「やる」と決めてからもやっぱり無理なんじゃないだろうか、怖いという感情がめぐってきて、どうしようか迷っている時期もありました。でも、これは私の使命なんだ、やめるのは簡単だけれど、私がやめたら、結局何も変わらない。でも私がひとりでも始めれば何かが変わるかもしれない。だったらやるしかない。と何かに後押しされたような感じで、決心したんです。

──何かきっかけとなることがあったのですか?

 病児、障害児の保育に取り組むフローレンスの駒崎弘樹さんのお話を聞く機会があり、大いに共感しましたし、話に勇気づけられたところも大きかったです。それと、中小企業庁が主催するビジネスプランコンテスト「Japan Challenge Gate2020」で中小企業庁長官賞を受賞したことにも背中を押されたと思います。
 実はさらにもう一つ、やりたいと思っていることがあります。
 それは、「起業家支援型放課後等デイサービス」です。私は発達障害当事者こそ、起業すべきという考えを持っています。
 ある特性を持った方たちは、既成の会社に勤めるよりも、そんな概念から解き放たれたところでのびのびと自分の発想を仕事にしていくほうが向いているし、生きやすい。そして、それが社会や経済にもいい方向に向かうと思っています。
 そのためには小さい時から「起業」という選択肢がないといけません。
 このデイでは、起業家支援型にすることで、発達障害のお子さんの好きなこと、得意なことを見つけてそれを伸ばす。そして、伸ばすだけでなく、経営やお金の計算など起業してやっていくために必要な知識を身に着け、支援をしていく。1,2年以内に実現できたらと考えています。

──どんどん夢は膨らみますね。

 はい。リハビリデイも重症心身障害児・医療的ケア児支援事業所も起業家支援型放課後等デイサービスも全国に広がっていけばいいと思っています。コンサルティングの役割も担っていきたいと――。
 それには、私のようなママさんの雇用を考えています。障がい児の母親の就業率は、著しく低い。それを解消したい。自分たちの経験や体験が生かせて、世の中のためになる。それが自分の子どものためにもなる。もちろんお金を稼ぐこともできる。それは生きがいにもつながります。

──すばらしい発想ですね。

 具体的には二つの方法を考えています。一つは直接雇用。「ゆずりは」で働いてもらうという方法。実際に、お子さんが療育に通っているというママさんもたくさん働いています。もう一つは全国各地で、悶々と悩んでいる同じような境遇のママさんたちの背中を後押しすること。つまり起業支援です。
 先日、新しい試みとしてオンラインミーティングを開いてみました。参加してくださった方たちは、皆前向きな気持ちでいろいろな意見を出してくれました。一人ではできないと思っている方もオンラインで情報を共有すれば、漠然と難しいと思っていたことの課題がはっきりしてくる。それを一つずつ取り組んでいけば、できるんです。実際に「私にもできるかも」という方も現れました。また、たまたま徳島の方が参加してくださった方がいるのですが、この方が、新規事業に協力してくださる可能性も出てきました。一人、二人でもやってみようという方がいれば、そこから少しずつ広がっていけばいいと思っています。それを具体的に後押しするコンサルのような役割もしていきたいと思っています。オンラインミーティングは、私も勉強になるし、新しい発見もあり、こうしたツールをいろいろ活用することで可能性が広がってくると感じています。
 何より、こうした場が全国にたくさんできて、子どもも、お母さんも輝けたらいいなと。その輪を広げていきたいと思います。

──ありがとうございました。

子どもが輝ける場所をもっと増やしていきたい


【インタビューを終えて】
 新型コロナウィルス感染拡大にともなう緊急事態宣言さなか、オンライン通話によるインタビューとなりました。オンライン通話の向こうにはお子さんの姿も。自然に子育てしながら、使命感を持って、果敢に仕事に取り組む姿に、こちらも大いに勇気づけられました。新しいツールを使いながら、全国にこのような場が広がっていくことを切に願っています。

【久田恵の視点】
 自分が必要とするものがそこにないのならば、当事者がそれを創る、そう、「ないなら創る」この形がもっとも心の行き届いた場を創る知恵ですね。同じ問題を抱える人たちが、太田さんという存在を得られたのは、とてもラッキーなことだと思います。ここからオリジナルなノウハウがどんどん生まれ、多様な子どもたちの魅力的な場所が生まれ育っていく希望を感じます。

●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。

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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます

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花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館