福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第10回② 佐藤優子 Nail Le Braille(ネイルルブライユ)代表
点字ネイルが社会のほうから近づくツールに
これまでとは異なる販売などの雇用範囲も広げたい
Nail Le Braille(ネイルルブライユ)代表
佐藤 優子(さとう ゆうこ)
1980年生まれ。
貿易会社に勤務する傍らネイリストの資格を取得後、2015年に大手サロンに転職。ネイルサロンに一年間勤務した後、2016年退職。介護施設でのネイルを施すボランティアをしながら、起業への情報収集を展開、2018年2月に日本初の視覚障害者のための出張型ネイルサロンを起業。ネイリスト。ネイルサロン衛生管理士。全国ネイルアートコンテスト2017最優秀賞受賞。
- Nail Le Braille(ネイルルブライユ)
https://www.tenjinail.com - テキストメニュー+動画で解説(音声読み上げ用)
https://www.tenjinail.com/テキストメニュー/
取材・文:進藤美恵子
前回は、視覚障害者専門の出張型ネイルサロン起業の経緯について教えていただきました。
今回は、起業してからのことについて伺いました。
──日本初のビジネスとしてどのように事業を展開されたのでしょうか。
ビジネスを始めて一番聞かれるのは、「ネイルって見て楽しむものでしょ。見えない人がネイルをする必要があるの?」。次に聞かれるのは、「身内に障害者がいないのに障害者向けのビジネスをするのって珍しいよね」って。でも決してそうではなくて、視覚障害のある方にモニターをしていただいたときに、早い段階でニーズへの確かな手ごたえを感じたのがこの事業への原動力となりました。
ところが実際に目の見えないというのがどういうことかを知ったのは、日本盲人会連合のフェスティバルを訪ねたときです。受付の方に「目の見えない人はネイルをしますか?」と尋ねたところ、「上の者を呼んできます」と呼んでくれて上の方が来たのですが、私の前を通り過ぎてしまって。なんで通り過ぎたのだろうとその方の後姿を見たときに、ああ、目の見えないというのはこういうことだって気づいて。生まれて初めて目の見えない人を目の当たりにしました。
ニーズはあるもののどんなふうにコミュニケーションを取ったらいいのか、どうやって広めていったらいいのかという点で苦労しました。どうしても見える立場で考えてしまい、ここで地雷を踏んでしまうのかというような場面で地雷を踏んでしまい、嫌な思いをさせてしまうこともあり苦労しました。
──ネイルのデザインを決める際など、目の見えない方とのコミュニケーションは具体的にどのように取られているのでしょうか。
手探り状態です。健常者同士であれば写真やサンプルを見せて簡単にデザインを選ぶことができます。けれども見えない方にイメージを見せてあげられるのは、言葉で説明することしかありません。自分の語意力の無さにがっかりするときもありますし、とにかくあの手この手で伝えます。
色も赤と言っても濃い赤もあれば薄い赤もあります。先天的な全盲の方の場合は、色を見たことがないので私たちが見ている赤とは違う赤をイメージしているかもしれない。そこで逆に提案することをしています。ニーズや用途を聞き出しながら、コンサートに行くからネイルをするという場合は、どんなコンサートなのかを聞いて、私たちの知識を使って似合うネイルを提案する方法です。
──社名の由来は?
社名のネイルルブライユは、フランス語のル・ブライユ(点字)からです。全盲のフランス人のルイ・ブライユによって考案されたのが点字です。実は、デザインの一つに点字ネイルも開発しました。目の見えない方からのニーズが高く、ある日、点字ネイルを施した健常者の方が、「駅のエレベーターの点字表記のこれって“レ”じゃないの」って、点字を読み取ることができたのです。
これを聞いてネイルのデザインに点字を組み込むことによって、社会の方が視覚障害を知るきっかけになった。点字に触れて読むことはできないけれど、目で見て読めるようになっていたのは、なんかすごい!これはすごいことだと思いました。ネイルというおしゃれの中に点字を組み込むことで、無理なく覚えることができます。ネイルを通じて視覚障害者と社会をもっとつなぎたいという思いが一層強くなりました。
──ネイルというツールを介すことで具体的にどのような現象が起きているのでしょうか?
視覚障害のある方がネイルをすることで、駅で声をかけられる率が高くなったり、お店で商品を選ぶ際に店員の方から「素敵なネイルですね」と声をかけられたりすることが増えたと聞いています。おしゃれをしている人には声をかけやすいようですね、とても嬉しい反応です。引っ込み思案の方や、自分から声をかけるのが難しい方にとって、ネイルをすることによって逆に声をかけてもらえて、不便だった生活が確実に便利になっています。
自分で見えなくても、しっかりメイクをして、しっかりネイルをしていることで自信をもって社会に出て行くことができるという一つのツールにもなっていると思います。今まで視覚障害者の方の仕事は、マッサージやパソコンしかありませんでした。
今では、メイクやネイルをしっかり施すことで周りの人の見る目も変わり、自信を持って健常者と同じ土俵に立つことができます。これまで手段が無かっただけで、視覚障害のある方も保母さんやファッションの店員をしたい…という夢を抱いています。ネイルを自分ですることはできませんけれど、人の手を借りておしゃれをすることで、障害の有無を超えた仕事にも進出できる手助けになると思いますし、雇用範囲の拡大にも貢献できるようにサポートしたいと思います。
──ありがとうございました。
次回は、起業に当たり活用した行政サービスについて伺っていきます。
「サイトワールド(Sight Worid)」をはじめ、
各種イベントへの出展を積極的に展開するネイルルブライユ。イベント会場では、憧れだったという販売員としても活躍する外谷陽香さん。ネイルルブライユの魅力を「より詳しく説明していただけることで、見えない人が自由にいろんなものが選べて感性も豊かになる。寄り添ってくれるところが一番」と話す。
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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
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花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館