福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第6回④ 吉田聡 一期一笑 在宅ケアグループ 共同代表
これからの課題は、「介護保険に頼らない」経営
スタッフの質を向上して、よりよいケアを目指す
一期一笑 在宅ケアグループ 共同代表
むさしウェルビーイング協会 理事
吉田 聡(よしだ さとし)
1985年生まれ。
学生時代から起業を志し、新卒で(株)船井総合研究所に経営コンサルタントとして入社。26歳で友人とデイサービスを設立。「お客様を元気にするデイ」として創業から7年でデイ6店舗、訪問介護、居宅介護支援、訪問マッサージの合計9店舗を東京都多摩エリアで展開し、在宅ケア全般のサポートに力を注いでいる。
- 一期一笑 在宅ケアグループ
https://kaigo-ichigoichie.com/
取材・文:毛利マスミ
前回は、介護施設としてのコンセプトや背景にある介護理論などについて伺いました。
今回は、起業直後と現在の課題についてお話しいただきます。
──多摩地区を中心に事業展開をしている理由を教えてください。
最初は2012年6月に、東村山市に民家を借りて、10名定員のデイサービスをオープンしました。この多摩地区を中心に事業展開している理由は、自分も共同経営者も共に多摩地区が地元だということと、特定地域内に集中して事業展開することで、認知度と経営効率を高めるドミナント戦略を選んだからです。地元を応援したいという気持ちと、母方の祖父が東村山に住んでいたこともあり、「いつかは祖父にも利用してもらいたい」という思いもありました。そして祖父に利用してもらうことは、叶いませんでしたが、地元、多摩地区のお客様を元気にする介護事業者の圧倒的一番は「一期一笑だ!」と思われる法人を目指しています。
しかし初めはどうやって営業したらいいのかわからずに、オープン1週間前になってやっと、ケアマネさんにご挨拶にいきました。そんな状態でしたから、オープン当初はなかなかお客様が集まらずに焦りました。2週間くらいして、ようやく1人決まったくらいなんですよ。
──集客に悩む中、どのような営業で、お客様を増やしていったのですか?
たまたま竹内教授のケアを知っている、ケアマネさんとの出会いがきっかけでした。その方に、自分たちの施設のコンセプトをお伝えしたところ、「それは竹内教授の理論だよね?」と。ちょうど、そのケアマネさんは、竹内教授の理論を実践する場所がないと感じていたそうで、それからはそのケアマネさんが応援をしてくださったことや、ここに来ると状態がよくなる方も多く、そうした評判もあっておかげさまでオープンから3か月後には定員いっぱいになりました。
それで約半年後の2013年1月には小平市に、さらにその年の12月には東大和市と立て続けに開業しました。当時、自分は管理者として、現場の仕事にプラス経営の仕事を。共同経営者は、社会福祉主事の資格を大卒時に得ていたので、生活相談員として昼間は現場で働き、夜は求人広告の代理店の仕事をしていました。忙しくても介護と求人広告の仕事を両輪に続けてきているのは、介護業と求人広告業のシナジーが期待できたからです。当時は役員報酬が20万円ほどでしたが、それこそ寝る間を惜しんで昼夜のケアに営業とがむしゃらに頑張っていました。
──起業から7年目を迎え、現在の課題を教えてください。
今後も高齢者の数は増えていく一方、社会保障費は変わりません。当然、一人当たりの社会保障費は減らさざるを得ず、国の介護保険の報酬は下がる傾向にあります。
このままどれくらい下がるのか見当もつかないなか、設備投資をして、人件費も払うとなると、経営的には大変です。今は、いつまでたっても国の方針に左右されてしまう介護保険に頼るのではなく、介護保険以外……例えば、介護保険を使えなくてもサービスを受けたいと思ってもらえる事業のありようも、もっと研究していかなくてはいけないと感じています。
2019年1月には訪問介護も始めました。これも介護保険の範疇ではありますが、新しいチャレンジへの布石になればと思っています。
また、より多くの方に利用してもらうには、サービスの質の向上は欠かせません。介護は「人が商品」といっては言いすぎかもしれませんが、人がサービスの要となります。今後はスタッフ研修にも力を入れていきたいと考えています。なかでもコミュニケーション力はお客様との関係はもちろん、スタッフ間の人間関係でも欠かせない力ですので、積極的にコミュニケーション研修を実施しています。PCに弱い人も多い業界なので、PC研修なども開いていきたいと考えていますし、社員の残業を減らすためのITの導入も検討しています。
スタッフが元気でなければ、よいケアはできません。スタッフが自然といい笑顔で元気な挨拶ができれば、「ここに来ると元気がでる、気持ちがいい」と思ってもらえる介護施設になるのではないでしょうか。自分はそんな施設でありたいと、いつも思っているんです。
──ありがとうございました。
体調に合わせて行っている。
- 【インタビューを終えて】
- 起業を目指した若者が、たまたま出会った介護の世界に、やりがいとビジネスチャンスを見出して奮闘する姿は清々しいものでした。ご利用者様と呼ぶことが多い介護業界で、「お客様」と呼ぶのも印象的でした。ただ余暇を過ごすだけではない、プラスアルファで元気が出るデイサービスの実践は、今後も広がりを見せていく勢いを感じました。
- 【久田恵の視点】
- 「一期一笑」、デイサービスのネーミングといい、二十六歳で起業にいたった経緯といい、両親のアドバイスを率直に受けとめて修行と自立へ向けた努力、そして成果。思わず拍手をしたくなります。
福祉の世界には、「恩恵を与える」という上から目線の対応が根強く残っています。
それに瞬間的に違和感を感じ、サービスを提供をするもの受けるものという対等な立場に持ち込んだ確かな視点。既成の価値観を軽やかに乗り越えていく若者のすがすがしさを覚えます。
彼らのような存在が、今後の介護分野に、先進的な文化を創り出してくれるのだと思います。
- 前回までのお話
① きっかけは、介護施設で感じた「違和感」。 社会で求められている仕事と、起業を志す
② 1年間の準備期間を経て、起業。創業から7年で6つのデイ、訪問介護&マッサージ、居宅を展開
③ 信じる理論とスタッフの笑顔が支えるコンセプトは「お客様を元気にするデイ」
●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。
「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館