福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
Vol.78 連載第3回
若年性認知症専門の
デイサービス設立を目指して立ち上がる

中島 珠子(なかじま たまこ)さん
コミュニティーナース
2014 年から認知症カフェ「たんぽぽカフェ」、2017 年からは若年性認知症本人と家族の集い「café マリエ」を主催。認知症になっても希望と尊厳をもって暮らし続けることができる社会を創りだす」ことを信念に、認知症のご本人や家族が集い、語らい、仲間づくりや情報交換の場を数多く企画・運営している。
取材・文 毛利マスミ
――前回は、中島さんが認知症支援をすることになった歩みについておうかがいしました。今回は、若年性認知症への取り組みについてお聞きします。
――まず、オレンジカフェについて、教えてください
渋谷区ではオレンジカフェですが、全国的には「認知症カフェ」と呼ばれています。第1回でもお話したようにオランダのアルツハイマーカフェを源流としています。「カフェ」という名前の気楽さからサロンとのちがい、ただのおしゃべりの場といった印象もありますが、「認知症理解を広める」「偏見をなくして、誰もが地域で暮らせるようにすることを目的にする」カフェです。体操したり、歌ったりするだけの場ではないんです。
わたしがたんぽぽカフェをひらいた2014年はまだ、渋谷区のオレンジカフェという制度もできる前でした。
2016年にオレンジカフェを渋谷区が認証するようになり、いまでは渋谷区にはオレンジカフェは16ヶ所ほどあります。年に5000円の支援金が出るシステムですが、書類申請も大変だし、補助金の役割を果たすには予算が少なすぎるのが課題です。
社会の高齢化は進む一方ですし、「認知症=何もわからない人」という認識では、地域で暮らしていくことはできません。そして、「集まってお茶を飲んで話を聞く」だけでも不十分です。認知症の新しい情報や、新しい認知症観、身近な情報など、とにかく伝え続けていくことが必要なんですが、課題は山積しています。
たんぽぽカフェは、現在、第2土曜の13時半〜15時半の2時間開いています。スタッフは5人程度で、当日は、当事者やご家族だけではなく専門職など、毎回10人前後が集まります。カフェは、当事者のみならず、家族や専門職の方のお悩み相談の場にもなっているんですよ。
――中島さんのもう一つオレンジカフェ、caféマリエについても教えてください
Caféマリエは、若年性認知症のご本人と家族の集いの場です。若年性認知症は65歳未満で発症する認知症のことです。
わたしがマリエを開いたのは、地域包括支援センターの看護師から、わたしの家の近くに若年性認知症の方がいらっしゃるんですよという話を聞いたのがきっかけです。高齢者の認知症とちがって、若年性だと高齢者のデイサービスのような場所がなくて、その方はかれこれ2年間、家に引きこもっているという話でした。
それまで、わたしは自分の仕事でも若年性認知症の方にはお会いしたことがありませんでした。わたしが働いていたのは高齢者施設でしたから。
はじめて「2年間も家にこもって、どこにも行くことができなかった」という話を聞き、それをきっかけにわたしも若年性認知症について調べはじめたんです。
それで当時、地域包括支援センターに勤めていた看護師の方と、「出かける場所がなくて困っているのであれば、つくるしかないね」ということで、一緒にはじめようという話になったんです。
でも、そこからがまた、大変で。まだ世の中に、「若年性認知症」という名前もあまり耳にすることのない時代でしたし、本人も家族も知られたくないんですよね、認知症のことを。だから、手伝ってくれるスタッフについても「守秘義務が守れる人でないとダメ」ということで、わたしとその看護師ではじめました。
最初、一緒に何をするのがいいのかと考えて、たまたまその患者さんは女性だったので、一緒にランチをつくって食べるのはどうか、そこから友達になって行こう、ということではじめました。2017年9月のことです。
第1回では、わたしがそばを打ち、その方に天ぷらを揚げてもらって食べる会というのをやってみました。その日は、その2年間引きこもっている女性の方とそのご家族、そしてもう一人、別の若年性認知症の方のご家族の方がいらっしゃいました。
そのときに、ご家族だけ別室に集まってもらって話をしたのですが、「同じような状況の家族の話はこれまで聞いたこともなかったし、自分も誰にも話せなかった。ここで話したり、聞いたりすることができて本当に救われた」と、おっしゃってくださったんです。
それで、必要とされるのなら「毎月やっていこう」ということになったんです。カフェは、回をかさねるうちに若年性の当事者がどんどん集まるようになっていきました。
当初Caféマリエに来るのは、なぜか女性の認知症の方が9割でした。妻の生活が立ち行かなくなると、日々の暮らしがたちまち立ち行かなくなるんです。夫は、これまでしたことがなかった食事の準備や洗濯、妻の着るものを準備することになります。下着はどうするのか、顔につけるクリームはどうする? といった悩みが本当に尽きないんです。
また、症状が進むと、「一人で家に置いておけない」現実的な問題に直面し、家族が働けなくなり、生活の基盤が築けなくなることが一番の大きな問題でした。
それで、行く場所がないなら「デイサービスをつくってもらおう!」と、本人、家族、区と交渉をはじめたのが2018年のことです。
――ありがとうございました。
次回は、渋谷区初の若年性認知症のためのデーサービス設立と今後の活動についてうかがいます。
第2回は2月27日(木)掲載
中島 珠子(なかじま たまこ)さん
1953年生まれ。看護師を勤めるが結婚を機に退職。その後、30年余のブランクを経て高
齢者デイサービスの看護師として復職した。一貫して、地域で暮らすこと、高齢者の課題、認知症の課題に目を向け、自宅を解放してのお茶会を在職中から開催。それが発展して、たんぽぽカフェ、café マリエなど、現在につながる活動となっている。体調を崩して 2019年に施設を退職した後も精力的に活動を広げ、コロナ禍の 2021年からは、仲間の看護師と一緒に「暮らしの保健室」を開所。多世代交流の場として活用しつつ、気楽な悩み相談の場を開いている。さらに、2025年1月からは、地域にこだわらない情報交換の場「結の碧空(ゆいのあおぞら)」もスタートさせた。

2019年に、満開の桜の下若年性認知症専門のデイサービスがオープンした。この時、中島さんは大病を患い入院中だったが、写真の仲間たちの晴れやかな笑顔に感慨無量だったという。
●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。
「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館