福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
Vol.77 連載第4回
「あなたの笑顔はわたしの元気」
かけがえのない「今」を共に生きる。
佐々木 眞理子(ささき まりこ)さん
まりちゃん家 代表取締役
【HP】
宮城県美里町にある「まりちゃん家」は、通所介護を兼ね備えた住居型老人ホームです。それは今から29年前、ひとりの主婦が老人ホームに入居していた実父を引き取り、ボランティア活動を始めたことがきっかけでした。
取材・文 原口美香
―前回は紆余曲折ありながらも続けてきた「まりちゃん家」の活動について伺いました。
―最終回では、現在の「まりちゃん家」の様子や今後の展望などお話いただければと思います。
今の建物は9年目になるのですが、その前にもう1件建物を建てました。人がいっぱいになって、利用者さんが安心してくつろげる場所、安全にお預かりする場所ではなくなったと感じたのです。ちゃんと責任を持って社会的に認められるものを作りたいと思って土地を探しました。お金を借りなければいけなかったので、会社を経営している信頼できる方に相談して、仙台の金融公庫まで一緒に行っていただいてやっとお金を借りることが出来ました。地位も名誉も実績もない女の人が銀行からお金を借りるって本当に大変なんだと思い知らされましたね。そこで12年間活動を続けて、借りたお金はちゃんとお返しすることができました。
―今の場所に移られたのはどんな理由があったのですか?
前の建物は消防設備のスプリンクラーがついていなかったんですよ。制度が変わって新たにスプリンクラーをつける必要がありました。私は2つ考えたのですが、1つはその建物に簡易的にスプリンクラーをつけて活動を続けるか、もう1つはちゃんとしたものを作って活動していくか。私はもう歳を取ってきているから、スタッフ全員に話しました。「私がひとりでやるなら簡易的につけて細々とやっていく。あなたたちがちゃんとしたものを作ってやりたいのなら、新たな場所に作る。どっち?」と。するとスタッフは「やります」と言ったんです。どうせやるならいいものを作ろうと、スタッフを連れて全国の施設のいいと思うところを4か所くらい見学に行きました。設計からみんなで考えて、利用者さんの過ごしやすさ、スタッフの働きやすさ、細部までこだわって作り上げたのが今の建物です。
建物も大切ですが、一番大切なのは理念だと思うんです。利用者さんに対する、この活動に対する考え方。私は主婦だったので難しいことは考えていなかったのですが、一緒にお金を借りに行ってくれた社長さんからある時「まりちゃん、事業なんだから理念をつくらないとダメなんだよ」と言われたのです。「倫理法人会の塾があるからそこに通って理念をつくりなさい」って。「私いいです、そんなの」と最初断っていたんですよ。やったこともないから分からないし、その塾は一泊だというし、3か月続くというし、大体行くのも億劫だなと思って。塾の前日まで断っていたんです。でもその社長さんに怒られて、「いいから言うこと聞きなさい。とにかく行け、行け」って。私も恩義があるから「分かりました」と行ったんです。
そこでは、宮城県の名だたる会社の社長さんたちがレクチャーをしてくださいました。聞いているうちに、私ここへきて良かったと心底思ったんです。理念も分からずやっていたら1年も持たなかった、それほど理念というものが重要なんだと気づかされたのです。ありがたいと思って1日目の講義が終わってすぐ社長さんに電話して、「ありがとうございます、ここに参加させてもらって。私一生懸命頑張りますから」ってもう涙が流れて。
塾生は25人くらい全国から集まってきていたと思います。私は劣等生で勉強してもなんのこっちゃ分からないことが多くて大変でした。講師の方に「今までやってきたことの、悔しかったこと、悲しかったこと、喜びを全部箇条書きして書きなさい。そこから理念を見出すことができるから」と言われて書いて。「あなたの笑顔がわたしの元気」これが泣きながらつくった経営理念なんです。
今、「まりちゃん家」は娘が2代目をやっていて、その経営理念3か条を毎日の朝礼で唱和しているんですよ。「あなたたちの代なんだから、変えてもいいんだよ」と言っているのですが、「いやいやこれがいいんです」と。
―「おじいちゃんを連れて帰ろう」と言ったあの娘さんですか?
そうなんです。新しいことも取り入れて、さらにバージョンアップしていると思います。利用者さんの希望にそって個別にお墓参りに行ったり、キッチンカーを呼んだり、バラエティに富むイベントを企画したり、私が思いつかないことをどんどんやってくれていますね。こうならねばならないということはないのですが、利用者さん本位ということだけは変わらないでほしいと思っています。
―眞理子さんの今後の展望などありましたら教えてください。
私は72歳になるのですが、まだ自分の役割があると思ってひとつ構想を練っているものがあります。それは「夢のまちづくり」。若い人も子どももお年寄りもみんなが暮らしやすい町になるような仕組みをつくりたいと思っているのです。配食サービスや病院の付き添い、買い物の補助、託児サービス、こんなのがあったらいいなと思えるような温かな町に暮らしていけるよう、私の残りの人生はここに捧げたいと思っています。
―ありがとうございました。
佐々木眞理子(ささき まりこ)さん
昭和27年生まれ、現在72歳。脳梗塞を患い施設に入所していた父を自宅に引き取り、1995年自宅を開放してボランティアでデイサービス「まりちゃん家」を始める。現在は定員25人の通所介護と、部屋数20室の住居型老人ホームを運営。「まりちゃん家」代表取締役。
「まりちゃん家」を支えるご利用者様、スタッフと共に
インタビューを終えて
眞理子さんは「あははは」と大きく朗らかに笑い、関わる人を元気にしてしまうパワーに溢れた方。取材の間、何度笑い合ったか分かりません。活動を始めてから29年の間「どうしようと思った時、考えたらちゃんと答えが見えてくる。いつも不思議と次の工程が見えてくる。それで今があるんです」とおっしゃっていたことが印象的です。事務長のご主人との仲睦まじい様子も素敵でした。
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