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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

Vol.76 連載第3回
食を通じてみんながつながる
小さな心遣いで気持ちが通い合う

渡邉 公子(わたなべ きみこ)さん

一般社団法人 ふらっとカフェ鎌倉代表

【HP】

第2回では、教員やNPO理事長のほか、母親としてPTA会長を務められた経験など、すべてを生かして「ふらっとカフェ鎌倉」立ち上げていくまでの様子を伺いました。

取材・文 石川未紀

――何年に「ふらっとカフェ鎌倉」を立ち上げられたのでしょうか?

 2017年のことです。活動の大きな柱は三つ。「みんたべ」という地域食堂。フードバンクかまくら。そして、「みんたべ協議会」です。

 最初は「みんたべ」という地域食堂から始めました。鎌倉市内のレストランやカフェ、福祉施設などで「みんなで作って、みんなで楽しく食べる」がコンセプトです。世代を超えた交流の場をめざしています。子どもなどに限定せず、誰でも来られてみんなでご飯を食べる「みんたべ」は、寄付など、いただいた食材などを活用していますが、誰かが提供して、誰かがそれを受け取るという一方通行の関係ではなく、ここに集うみんなができることは協力してやろうというのが、参加のルールです。ですから、大人の方は参加費以外にも、お金を寄付していただくこともありますし、子どもたちも一緒に調理を手伝ったりしています。
 500円の参加費(子どもは無料)を払えば、事前予約を原則としていますが、どなたでも参加できます。

 私は栄養バランスを大切にしています。また、旬のものも積極的に取り入れています。参加した人の中には、家庭菜園などでとれた野菜などを持ってきてくれることもあるんですよ。それを取り入れて提供しています。みんなで楽しく食べながら「食育」もできます。

 また、フードバンクかまくらという活動もしています。主な活動は3つで、1つ目は「手くばり・足くばりプロジェクト」と称したひとり親家庭・生活困窮の家庭向け個別配布。もうひとつは「鎌倉スマイルフードプロジェクト」。こちらは、市内5つの行政区を巡回し無料配布会を実施しています。3つ目は子ども食堂や福祉団体への食糧支援です。困ったときはお互い様。必要なところに必要なものを届ける活動です。配布する食糧は寄付でまかなっています。

 「手くばり・足くばりプロジェクト」では、毎月1回、鎌倉市福祉センターを拠点に、配達もしくは来所していただき食料品等を配布しています。ただ、配ればいいというものではありません。配布日時をメールお知らせするときも一斉送信ではなくて、お一人お一人に、それぞれメッセージを送るようにしています。

――それは大変ですね。

 ほんのひとことなんですよ。お子さんは来年小学生ね、とか、もうすぐ息子さんは受験だから頑張って、とか。一言なんですけれど、相手の顔がお互い見えているのは大事なことではないかと思っています。「こんなことを覚えていてくれてうれしい」という声をいただくこともあります。逆に、利用している方から、「渡邉さん、スマホはこうやって使うと便利なんですよ」なんて教えてもらったりしてね。「あげる」「もらう」という関係を超えて「お互い様」の気持ちを育てていくことが大事だと思っています。

 私は、高齢者男性の料理教室もやっているのですが、「手くばり・足くばりプロジェクト」の活動をしていることを知ると、受講者の方から「だったら、僕が車を出して配ってあげるよ」と申し出てくださってスケジュールも組んでくれて――。だから、私も庭にあるカボスを一生懸命取ってプレゼントしました(笑)。ほんのちょっとしたことですが、誰かが一方的に何かをするのではなく、お互いのためになることをしようという意識が、この鎌倉にはあると思います。

――それは渡邉さんのお人柄も大きいですね。

 コロナ禍に入って給食が提供されない時期がありました。生活に困難を抱えている家庭の子どもは栄養バランスの良い食事は給食で補っていたのですが、それすら機能しなくなるのではないかという危機感がありました。それで、フードバンクの必要性を強く感じたのです。「フードバンクかまくら」は鎌倉市との協働事業なのですが、鎌倉市は市民の声を聞いて後押しするのがとてもうまいなと思っています。市が中心になるとどうしてもハードルが高くなってしまいます。市民の力を信じて、市として何ができるかという姿勢が備わっています。鎌倉市はNPOがとても多く、その文化も根付いています。それぞれのNPOの規模は大きくありませんが、だからこそ、きめ細かい活動もできる。

 私は地域のNPO活動に関わっていたので、市役所の方とのつながりもあって、話がしやすかったのも大きかったかもしれません。
 鎌倉市からは、フードバンクの場所を提供いただいたりしていますが、私たちも市民としてできることをやりながら良い関係を築いていきたいと思っています。

第4回は12月26日(木)掲載

渡邉 公子(わたなべ きみこ)さん 一般社団法人 ふらっとカフェ鎌倉代表

高等学校教員、大学教員、NPO事務局長・理事長等を経て、2017年一般社団法人「ふらっとカフェ鎌倉」を立ち上げる。世代を超えた交流の場を提供する「みんたべ」地域食堂、鎌倉市との協働事業「フードバンクかまくら」、市内で運営している子ども食堂や福祉団体、高齢者施設や保育園などと連携し情報交換をおこなう「みんたべ協議会」の三つの活動を柱に活動中。

おてら食堂 地元の大学とコラボして栄養たっぷりの食事と食育を

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100歳時代の新しい介護哲学

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本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。

花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館