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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第73回①
NPO法人 all smile代表 田村有希さん
特別支援学校に通う保護者から、成人の
「晴れ着」はあきらめている、という声を聞いて

田村 有希(たむら ゆき)さん
NPO法人 all smile代表

ダウン症の長男が通っていた特別支援学校の保護者から「成人の晴れ着姿の撮影をあきらめている」という声を聞く。着付けやヘアメイクの技術を持つ田村さんは、何とかその願いをかなえようと、2009年に「障がい者達の成人を祝う写真撮影会」を発足。2019年NPO法人格を取得。現在、年数回「障がい者達の20歳を祝う写真撮影会」を継続中。Lethe代表。

取材・文 石川未紀

――障がいのある方の晴れ着を着付けして、記念撮影を行っているそうですね。何かきっかけはあったのでしょうか。

 はい。私は第二子である長男がダウン症でした。子どもが小さい頃から福祉を利用しながら仕事もしていました。最初はパートなどに出ていたのですが、母がヘアメイクや着付けの仕事をしていたので、その影響もあって、長男が小学校に上がるころには、母を手伝いようになり、同じ仕事をするようになったんです。

――それでは、着付けやヘアメイクの技術はお持ちだったのですね。

 はい。息子が通う特別支援学校ではPTA活動などもやっていたので、同学年の親御さんだけでなく、先輩、後輩の親御さんとも仲良くさせていただいていたんです。
 小・中学校の同窓会の役員をやっていた時のことです。先輩のお母さんから「成人の時には、本当は晴れ着を着せてやりたいし、写真も撮りたい。でも、きちんと撮れるかわからない。だから成人の晴れ姿はあきらめている」というお話を伺ったのです。私の息子は重度の障害者手帳を持っていますが、袴を着たり、写真館に行って写真を撮ったりすることはできました。ですから、そういう悩みを抱えているお母さんがいることに気づいていなかったんですね。
 特別支援学校に通うお子さんは、一言で障がいと言ってもその特性はそれぞれ全く違います。障害者手帳や療育手帳の級数だけではわからないことがたくさんあります。軽度と診断されていても、こだわりが強かったり、人に触れられるのが苦手だったり、知らない場所が怖かったり、じっと落ち着いて座っていることが難しい方もいます。振袖や袴を着て写真を撮るという行為は、ヘアメイク、着付け、撮影と、長時間慣れない場所で、緊張を強いられますから、親御さんが不安に思う気持ちも理解できます。

――それでは先輩のお母さんの声がきっかけとなったのですか?

 ええ。私も子どもたちが大きくなるにつれ、自分たちの生活のためだけじゃなくて、何かできることはないかなと思っていました。そして、この話を伺ったとき、着付けやヘアメイクの技術を生かして、私にも何かできることはあるんじゃないかなと、思い始めたんです。
 まずは仕事仲間の亀有スタジオさんに相談しました。「こんなことをやりたい」を伝えると、そんなお話なら、と引き受けてくださったんです。また、呉服店さんには仕事上、知り合いも多いので、活動の主旨を説明してお願いしました。
 それで、資金ゼロからでしたが、ともかく始めてみようということになったんです。2009年に任意団体として「障がい者達の成人を祝う写真撮影会」を発足させました。PTAを通して、お母さん方の友人もたくさんいたので、共感して協力してくださる方も現れはじめました。
 呉服店が集まっているグループへプレゼンする機会を頂き、「障がい者達の成人を祝う写真撮影会」をやりたいのだと伝えたところ、着物・バッグ・草履・和装小物などを提供していただけたんです。ほかの呉服店や企業・個人様からも晴れ着一式を寄付していただきました。
 2010年1月に第一回の「障がい者達の成人を祝う写真撮影会」を開催したのですが、皆様からいただいたお着物を使用させていただきました。その後、いくつか流行りの着物などを購入したり、寄付したりしていただき、現在は50~60着ほどあります。自分好みの着物を選んでいただくことも一つの経験として良い思い出になります。
 こうして、私たちは毎年1~2回撮影会を重ね、2019年NPO法人「all smile」発足させたのです。

ありがとうございました。

田村さんご家族で

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花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館