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福祉の現場で思いカタチ
~私が起業した理由わけ・トライした理由わけ

志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!

【毎週木曜日更新】

第71回④
やぶうちゅうさん
「できる。できない。じゃない! やってみるんだ!展。」
ヤングケアラーの体験が新しい福祉を生み出した。

やぶうちゅうさん

1986年生まれ、大阪府出身。知的障害を持つ母、発達障害の父のもとで育つ。高校卒業と同時に上京し、まんが家を目指す。2011年自身の体験を描いた「ウチとオカン」でエッセイまんが家デビュー。以降、フィリピン留学をテーマにした「ウチと初海外!」や「貧困女子物語」など作品は多数。現在は放課後等デイサービスに勤務しながら、杉並区を拠点に虐待防止「杉並しあわせ産後プロジェクト」、アートを通じて誰もが集える場所づくり「できる。できない。じゃない!やってみるんだ実行委員会」、講演など幅広く活動中。

取材・文 原口美香

-前回は放課後等デイサービスで障害を持つ子どもたちのアート作品を作り、一年かけて作品を集めるまでのお話を伺いしました。
最終回ではその展示会の様子からお話いただければと思います。

 子どもたちの作品を一年間集めて展示会を開くことにしたのですが、その展示会の名前を「できる。できない。じゃない! やってみるんだ!展」に決めました。できること、できないことを評価するのではなくて、やってみたいと思ったことを、やったことをよしとしようよ、という思いが込められています。周りの人がそういう環境と考えを持っていればこの子たちも私たちもハッピーだよね、とスタッフと話ました。

 「できる。できない。じゃない! やってみるんだ!展」のプレは、放課後等デイサービス主催で行いました。SNSでの発信やチラシを作って撒いたり、知り合いがたまたま放課後等デイサービスをやっていたりもあって、他県からもいろいろな繋がりで人が来てくれて、計200人くらいの人が集まってくれたと思います。放課後等デイサービスがどんな場所なのか知らなかった人に伝えられたことも、よかったです。

 母にも子どもの時代があったわけだから、その頃にこのような環境や見てくれる人がいたら今が絶対違ったと思うんです。子どもの時の体験ってすごく大切だし、子どもの時にどういう人が関わるかで一生が決まる。障害があるから問題行動を起こしているんじゃなくて、障害があるが故、素直で周りの影響を受けやすいんだと分かったんです。だからこういう障害がある人もない人も知り合いながら、それぞれがやってみたいことをやることができる場所を作りたかった。そういう思いが届いてきて、ちょっとずつちょっとずつ手伝ってくれる人が増えてきました。今年で7回目を迎えます。
 ボランティアの方も30人~50人くらい来てくれて。杉並が拠点ですが、依頼を受けて仙台や鹿児島などで行うこともあります。

-障害のあるお子さんに教える時に、大切にしていることはどんなことですか?
また、その子の力を引き出すような工夫はありますか?

 子どもたちがやってみたいと思うことって、その子どもによって違うんです。まずはその子どもの様子を観察します。教室に入ってきた瞬間や、座っている時の様子、落ち着きがない子もいれば、目立ちたくて発言する子など様々です。その子のやってみたいことを見極めて、その子がどこで輝けるか。動きが多い子は身体を使ってドンチャンするのが好きだったり、主張したい子はその子をリーダーにして声を出して指揮をとってもらったりすると上手くいったり。最初は全然どうしていいか分からなかったけれど、ぶつかって失敗して回数をこなしていくうちにだんだん分かるようになってきました。
 走った後を残すとか、手形をつけたところに丸をしていくとか、運動を取り入れていくことも多いです。動いていると楽しくなってきて、絵具を触って遊ぶうちに感覚過敏が軽減していくこともありますし、ボディイメージをつけるために、寝転がって自分の身体をクレヨンで描くということも取り入れています。
 その子がやってみたいと思ったことが出来たり、活躍出来たり、そういう環境ができるとその子には「自分がここに来ると褒められる」という成功体験になるから、自信にもなるんです。小さな成功体験を積んでいくことが大人になって折れない心をつくると思っています。これらは、障害があるなしに関係なく子供たち、みんなにに必要なことです。子供だけはでない。親(大人)たちにとっても大切なことだと思っています。

-今後の展開を教えてください。

 アートのイベントをやり続けたり、事業所のプログラムでアートを教えたりしているうちに、授業をしてほしいという依頼が増えてきました。児童相談所にも出かけていくのですが、発達障害の子どもが多くなったと感じています。アートの中に発達障害の子たちが落ち着く要素を取り入れているのですが、それをやることで発達を促すということが分かってきたんです。3年後を目安にそういうアートができる自分の施設を建てたいと思っています。今年、放課後等デイサービスを建てる児童発達支援管という資格が取れるようになりました。今は場所を探し始め、資金集めにも動き出しています。協力するよと言ってくれる仲間たちと一緒に施設を建てたいと思っています。

-ありがとうございました。

手足に絵の具をつけて身体を動かした跡を残す 「アート運動会」のワークショップ

インタビューを終えて
 実際にお会いした「やぶうちゅう」さんは、キラキラと輝く中に不思議な雰囲気を持った魅力ある方でした。デビュー作の「ウチとオカン」も読ませていただいたのですが、大変な環境にも負けず明るく生きていく姿が描かれていて、とても勇気づけられました。そして何より印象的だったのが「できる。できない。じゃない! やってみるんだ!」というフレーズ。たくさんの人が背中を押されることと思います。今年の「やってみるんだ!展」は10月11~13日の予定とのこと。今後の「やぶうちゅう」さんから何が生まれてくるのか楽しみです。
久田恵の視点
 困難を抱えた環境の中で育ったやぶうちゅうさん、素晴らしいですね。
なにしろ普通なら打ちのめされてしまうような困難の中で学んだことを、彼女は、自分の生きる力へと変えていったのですから。
そんなふうに人は生きられる、という希望を私たちに与えてくれます。

●インタビュー大募集
「このコーナーに出てみたい(自薦)、出してみたい(他薦)」と思われる方がいらっしゃいましたら、terada@chuohoki.co.jp までご連絡ください。折り返し連絡させていただきます。

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100歳時代の新しい介護哲学

「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます

本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。

花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館