福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第65回④
神馬幸子さん スペースひだまり
地域に「屋根のない長屋」をつくり、
誰もが住み慣れたこの町で暮らし続けるための伴走者として活動していきたい。
神馬幸子さん
スペースひだまり
横浜市神奈川区六角橋2-30-2
神奈川県横浜市生まれ。2人の子どもが手を離れた40歳の頃、介護ヘルパー2級を取得。認知症専門のデイサービス勤務を経て、横浜市の地域ケアプラザに移る。52歳で独立。2019年、株式会社つながり代表取締役となり、認知症対応型通所介護「スペースひだまり」を開所する(現在は横浜市の六角橋と片倉の2か所を運営)。居宅介護支援事業所「ひだまり+」に加え、2023年には、地域に「屋根のない長屋つくり」を目指す「株式会社たぬきち商事」の立ち上げメンバーとなる。社会福祉士・介護支援専門員。
取材・文:原口美香
―前回はケアマネの事業所やデイサービスの2店舗目を開所したまでのことをお話いただきました。
―最終回は、現在新たに始められた事業のことや、今後の展開などを伺っていきたいと思います。
起業して2年目の頃に声をかけていただいて、業務提携という形で介護保険外の家族代行サービスという事業を始めました。そちらの代表の方とのご縁で、2023年1月に「株式会社たぬきち商事」を設立、取締役として一緒に立ち上げさせていただきました。
目指しているのは、地域で暮らし続けるための「屋根のない長屋」をつくり、家族だけが頼りではなく、たくさんの人たちが力を出したり貰ったりして、人も地域もより豊かに暮らすことのできる仕組みを広げていくことです。
例えば高齢者になると介護保険を利用したヘルパーさんには依頼できないことも多くあります。生活必需品ではないものを買ってきてほしいとか、一緒に郵便局に行ってほしいとか、大掃除をしてほしいとか。今までの日本では「家族」がやってきて当たり前のようなこととされてきたのでしょうが、ご家族がそれを賄いきれない、また、お一人暮らしやご高齢の夫婦だけの暮らしも増え続けています。それを賄える仕組みがあれば、今の家でずっと住み続けることができるんじゃないかと。ささいなことを気楽に頼んだり、相談できたり、困りごとがあれば、解決できるまで一緒に方法を考えてくれたり。それをちゃんとビジネスとしてやっていくことができたら、使いやすいなとも思うんです。
「屋根のない長屋」の住民登録(1か月1,500円の会費)をしていただくと、ご希望の方には町を巡回している「たぬきち」御用聞きに伺うというものです(さらに御用がある場合には実費にて)。
住民登録をしてまわってもうらうって、最初はどうなのかなと思ったのですが、自分が見知った人が週1回ピンポンと尋ねてきて「困りごとはないですか?」って聞いてくれたら、やっぱりうれしいなと思って。1人で頑張って暮らしていたり、夫婦2人だけで暮らしていたり、高齢であればあるほどなおさらですよね。
―実際に住民登録をされる方はどのような年代の方が多いですか?
高齢者の方も多いですが、50代、60代くらいも多いですね。親に言うほどではないけれどちょっと話したい、地域につながりを持ちたいという若い人もいます。月に2回イベントもやっているのですが、憩いの場だったりしゃべり場だったり、地域にふらっと気軽に立ち寄れる居場所があれば、より住みやすく助け合って暮らしていくことができるんじゃないかと思うんです。助けてもらうばかりではなく、地域の中で働きたい、活躍したい方も多くいます。地域内循環は大きな社会課題解決になると考えています。
―今後の展開を教えてください。
今、「認知症サポーター養成講座」や「意思決定支援の実践に向けて」「伴走者の居る暮らしとは」など、いろいろな講座をやらせていただく機会に恵まれているのですが、いろいろな団体とコラボして地域も絡んで活動していければと思います。
コロナでできなかったことも多くあり、スタッフの中にもそれはあると思うのでみんなの思いも実現させていけたら。
そして、起業して以来思いは変わらないのですが、それぞれの人が安心して豊かな気持ちでいられる「居所(いどころ)」づくりをしていきたいと思っています。
―ありがとうございました。
月に2回開催される「たぬきち商会」のイベントで、地域の人とつながりを深める。
- インタビューを終えて
- 50歳を過ぎてデイサービスを立ち上げられた神馬さん。このインタビューを引き受けてくださった時に「若い人たちに、こんなふうにやっていけるんだという一助になるお話ができたら」とおっしゃっていたことが印象的でした。
障害を持っていても認知症になったとしても、住み慣れた地域で生きていける。「屋根のない長屋」への取り組みは、希望ある新しい地域の在り方を見せていただいたように思えました。
- 久田恵の視点
- 一人の女性(神馬幸子さん)が立ち上げたデイサービスが、優しい街づくりの原点になったのですね。
地域の半径1kmの範囲に「困った時に支えてくれる人が必ずいる」という優しい街づくりへ広がっていったとは、感動です。
ささやかだけれど大切なこと、それを忘れてはいけないのだ、としみじみ感じさせられます。
●インタビュー大募集
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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館