福祉の現場で思いをカタチに
~私が起業した理由 ・トライした理由 ~
志をもってチャレンジを続ける方々を、毎月全4回にわたって紹介します!
【毎週木曜日更新】
第61回④
一般社団法人Ayumi 代表理事 山口広登さん
飲食店を中心とした店舗のメリットも確実にしながら
障害者と健常者の垣根をなくす社会の実現へ
一般社団法人Ayumi
代表理事 山口広登さん
2017年桜美林大学卒。株式会社クイックに入社、人材紹介事業部の新規立ち上げエリアを担当。その後、株式会社CanIyに入社。フランチャイズ事業部のカスタマーサクセスに従事。ベンチャー企業で働く代表や上司に刺激を受け、自分の思いを実現したいという意識を持つようになる。2021年に退社、同年8月、一般社団法人Ayumiを設立、代表理事に就任。障害を価値に変えるバリアフリー認証をもとにした集客支援サービスを展開中。
取材・文 石川未紀
■ホームページ
前回は、現在の課題とその打開策について伺いました。
―バリアフリー認証を受ける飲食店等には具体的にどんなアドバイスをしているのでしょうか?
小規模な店舗ではハード面では限界があります。私たちが店舗の方に対して伝えているのは「障害のある当事者に選択肢をあたえてください」ということ。ですから「質問してください」と言っています。過剰な配慮は障害のある当事者にとっては申し訳なさが先立ち、却って居心地が悪いものですし、必要のない配慮はむしろ迷惑になることもあります。この感覚はみんな同じではないでしょうか?過剰な配慮はむしろ遠慮やマイナスの感情を生み出してしまうこともあると思います。ですから「どうしたらお食事を楽しめますか」など、具体的に何をしたらよいかを聞いたほうがいいですよ、と。
―障害者の方も、話しかけられたら必要な配慮を言いやすくなりますね。
「障害」と言っても、人それぞれ助けがほしいところは違います。視覚障害者の方が来たら「A」、車いすの方が来たら「B」という対応、というようなマニュアル通りにやることはロボットでもできることです。人間だからできることをやっていく。例えば「視覚障害」とひとくくりにしても見え方や見えにくさは人によって違います。会話をしていく中でどんなふうにしたらお食事を楽しんでもらえるかを考えていく。
今後は、より一層「Ayumi」の認知度を上げて、活用したい飲食店を増やしていきたいと考えています。おかげさまで、導入いただいている店舗の満足度は大変高くて、来年も必ず更新しますと言っていただけるのですが、導入前の店舗の方には「本当にこの金額で、この効能が期待できるの?」という不安があるようです。障害の方を受け入れるということはお店に負荷がかかるのではないかと思われているところもあります。飲食店としてもほかにも解決したい課題があるなかで、バリアフリー認証を最上位に持ってくるには私たちもまだまだ努力が必要です。しかし、先にも申し上げたように、障害のある方に心地いい店はほかのお役さんにとっても居心地がよく、実際に導入いただいている店舗ではそれを実感いただいているので、そこをしっかりアピールしていきたいですね。
―具体的な対策などは?
メディアなどへも積極的に出て、バリアフリー情報サイトへのアクセスを増やす努力をしています。SNSなども力を入れています。インスタグラムもまずは1000人のフォロワーを目標にしています。イベントオンラインセミナーを毎月一回やることを2023年7月から始めています。障害のある方も今はSNSなどで積極的に発信していますから、そういう方にお声掛けして、その障害のある当事者やその家族の方とコラボして、インスタライブやオンラインセミナーを開催しており、好評をいただいております。障害のある当事者や家族の方のインスタをフォローしている方が、オンラインセミナー等に参加いただくことで「『Ayumi』って何?」と、ここから知っていただく。この方法で少しずつ認知度が上がっています。
究極的には、障害による格差をなくしていくことが目標です。そして、この活動が結果的に店舗や企業にとっても売り上げにつながるような仕組みをどれだけつくれるかが勝負だと思っています。この仕組みを作り上げることは、すなわち、障害のある人たちの雇用拡大にもつながります。きれいごとや理想論に聞こえるかもしれませんが、障害を負っても、未来は明るく照らされている社会にしていきたい。それはけっして不可能ではないと考えています。
―ありがとうございました。
障害者と健常者の垣根をなくすべく会話を重ねる
- インタビューを終えて
- 久々にこんなに高い熱量の若者を見た、というのが率直な感想です。とにかく走るのだ!という勢いと情熱を感じました。障害者の雇用や新しい価値観を作るという社会的な使命を背負ってひたすらまい進する姿は、頼もしく、未来は明るいと感じるインタビューでした。どんな障害を負っても、おいしいレストランや居心地のよいカフェが楽しめる、そんな世の中が来るのも遠くはないかもしれません。
- 久田恵の視点:
「障害を価値に変えるバリアフリー認証をもとに した集客⽀援サービス」。 - この隙のない文言の完璧さ。思わず目も心も釘付けになり、大拍手、という感じ。
福祉の仕事に新たな視点を提起、これからは、山口さんのこういった考え方が、新たなウェーブになって広がっていくのだなと実感させられました。
●インタビュー大募集
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「ファンタスティック・プロデューサー」で、ノンフィクション作家の久田恵が立ち上げた企画・編集グループが、全国で取材を進めていきます
本サイト : 介護職に就いた私の理由(わけ)が一冊の本になりました。
花げし舎編著「人生100年時代の新しい介護哲学:介護を仕事にした100人の理由」現代書館