F-SOAIP(生活支援記録法)とは?
わかりやすい介護記録・支援経過記録の書き方を
例文付きで紹介!
【介護記録・支援経過記録】
例文を交えてF-SOAIPでの記録の書き方を紹介!
介護記録や支援経過記録には、利用者・家族、他機関・他職種との情報共有や、支援の質の向上、苦情等への備えなど、さまざまな役割があります。しかし、「何を、どのように書けばよいかわからない」「要点を簡潔に書けない」「忙しくて記録に時間をかけられない」など、その書き方に迷う介護職やケアマネジャーも少なくありません。
この記事では、そんな記録に関する悩みを解決できる注目の記録法「生活支援記録法(F-SOAIP)」を紹介します。
1.生活支援記録法(F-SOAIP)とは?
F-SOAIP(エフソ・アイピー)とは、嶌末憲子氏(埼玉県立大学准教授)、小嶋章吾氏(国際医療福祉大学大学院特任教授)が開発した、①Focus、②Subjective Data、③Objective Data、④Assessment、⑤Intervention/Implementation、⑥Planの6つの項目で記録する手法です。
F | Focus | 焦点 |
S | Subjective Data | 主観的情報 |
O | Objective Data | 客観的情報 |
A | Assessment | アセスメント |
I | Intervention/Implementation | 介入/実施 |
P | Plan | 計画 |
2.F-SOAIP各項目を例文で紹介
項目F(焦点)は、いわば場面のタイトルであり、書かれている場面を把握できるような表現を簡潔に一言で記入します。たとえば、以下のような表現が考えられます。
①実践場面をとらえた表現
実践場面全体を簡潔に示す。
(例)F:散歩時の膝の痛み
F:入所時の身体状態
②項目P(計画)につながる表現
実践内容とともに、今後どのように対応していくかを示す。
(例)F:散歩の継続に向けた情報共有
F:デイサービス利用の提案
③当事者のニーズや記録者の気づきなどを示す
実践場面のなかでも特に当事者のニーズや思い、強みなどに着目して場面を示す。
(例)F:散歩希望への対応
F:デイサービス利用の拒否
項目S(主観的情報)は、利用者本人やキーパーソン(家族など)から得た主観的情報を記載する項目です。利用者本人やキーパーソンの言葉をそのまま記録するため、記録者の解釈に左右されることがありません。また、利用者本人以外の発言については、誰の発言かがわかるように発言者を記載します。
(例)
S:歩いていると膝に痛みがある。
S(長男):膝の痛みで運動量が減ってしまうことが心配です。
項目O(客観的情報)は、観察から得た情報や他職種から得た情報(他職種による対応等を含む)などを記載する項目です。たとえば、以下のような内容を記載します。
①利用者本人の様子(表情、態度など)
(例)O:病院へ行こうと急いでいる様子。
②人間関係(家族関係など)
(例)O:休日には隣町に住む長女が様子を見に来るなど、家族関係は良好な様子。
③バイタルサイン
(例)O:体温37.4度、脈拍90。
④ADL(日常生活動作)
(例)O:立位は安定している。
⑤生活環境に関する情報(室内の様子など)
(例)O:室内には空のペットボトルや新聞紙が散乱している。
⑥他職種から得た情報(申し送りの内容など)
(例)O(看護師):定期受診で検査したところ、血圧が高かった。
項目A(アセスメント)には、支援の根拠となる支援者の気づきや判断、解釈を記載します。
(例)
A:運動量を維持するためには、膝の痛みへの不安に対応しつつ、散歩を継続できることが必要。
A:本人、家族が相談でき、病院との連携をスムーズにするために訪問看護の導入が必要。
項目I(介入・実施)には、項目Aに記載した判断に基づき、記録者が行った支援や対応(声かけや介助等)を記載します。
(例)
I:膝の痛みが心配なので、整形外科を受診してみませんか。
I:今日は午後からの入浴であることを説明した。
項目P(計画)は、当面の対応予定を記載する項目です。今後の予定を記載することで、記録者以外の職員や他職種も一貫した支援を行えるようになります。
(例)
P:膝の痛みに関する情報を共有する。
P:痛みの状態を継続的に観察し、医療職とも対応を相談する。
3.例文でわかる F-SOAIPの書き方
F-SOAIPで記録すると、支援の具体的な経過や、支援の根拠となる支援者の判断がわかりやすくなります。従来の記録やSOAPによる記録との違いを、例文を交えて紹介します。
【従来の記録】
胆管がんと診断され、まずは入院して黄疸を解消する治療を受け、その後は外来で診ると言われたとのこと。長女からは「病院から介護保険の申請を勧められた」との話があった。顔にはまだ黄疸がある。ADLは自立しているが、体力が落ちて、趣味の畑仕事もやめている様子。介護保険の申請を代行し、訪問看護の利用を医療機関と相談する。
【SOAP】
S(本人):胆管がんと診断された。まずは入院して黄疸を解消する治療を受け、その後は外来で診ると言われた。
S(長女):病院から介護保険の申請を勧められた。
O:顔にはまだ黄疸がある。ADLは自立しているが、体力が落ちて、趣味の畑仕事もやめている様子。
A:在宅療養を希望しているが、いつでも相談できる用意が必要。
P:介護保険の申請を代行し、訪問看護の利用を医療機関と相談する。
F-SOAIP
F:がんの療養に関する相談
S(本人):胆管がんと診断された。まずは入院して黄疸を解消する治療を受け、その後は外来で診ると言われた。
S(長女):病院から介護保険の申請を勧められた。
O:①顔にはまだ黄疸がある。
②ADLは自立しているが、体力が落ちて、趣味の畑仕事もやめている様子。
A:在宅療養を希望しているが、いつでも相談できる用意が必要。
I:介護保険の認定を受けて、訪問看護を利用してはどうか。何か不安なことがあったときにはいつでも相談できます。
P:介護保険の申請を代行し、訪問看護の利用を医療機関と相談する。
従来の記録に比べ、SOAPやF-SOAIPを用いると、「とのこと」「話があった」などの余分な表現を省略でき、発言や利用者等の様子など、記録に含まれる要素が一目で判別できるようになります。
また、F-SOAIPでは、SOAPにはなかった項目「F」があることで、従来の記録やSOAPでは記録の全文を読まなければわからなかった「どのような場面を記録しているか」がすぐにわかります。さらに、項目「I」があることで、項目「A」で記載した支援者の判断に基づき、どのような支援を行ったかを明示できるようになりました。
このようにF-SOAIPを用いると、①利用者や家族等の言動や状況→②それに基づく支援者の判断→③支援→④今後どのように対応するか、という一連の支援の流れを漏れなく、わかりやすく記録に残すことができます。
4.F-SOAIPを身につけるために
F-SOAIPを実践するためには、まずは6つの項目に慣れることが必要です。そのためにおすすめなのが、書籍『医療・福祉の質が高まる 生活支援記録法[F-SOAIP]』です。ここでご紹介した各項目の詳細のほか、F-SOAIPを用いた記録が場面別に掲載されているため、F-SOAIPを実践するうえでのポイントや、記録を書くためのヒントが満載です。F-SOAIPの独学に活用することはもちろん、地域の職能団体、病院や事業所といった職場で研修会を開催し、本書をそのテキストとして使用することもオススメです。
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このページの内容は、嶌末憲子、小嶋章吾『医療・福祉の質が高まる 生活支援記録法[F-SOAIP]』の内容をWeb掲載に見合う形に編集したうえで転載しております。より詳しい内容は本書籍をご覧ください。