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精神科看護の「倫理」について考えてみよう

精神科看護の「倫理」について考えてみよう

1.精神科看護とは

 精神科看護とは、「精神的健康について援助を必要としている人々に対し、個人の尊厳と権利擁護を基本理念として、専門的知識と技術を用い、自律性の回復を通して、その人らしい生活ができるよう支援することである」と定義されています(一般社団法人日本精神科看護協会)。
 精神的健康とは、単に精神疾患に起因するものだけではなく、人々が生きる過程で直面する多様なこころの問題を含みます。つまり、精神科看護師には、精神疾患を有する人々にとどまらず、すべての人々を対象とする幅広い支援活動が求められているのです。
 また、対象となる人々の生命、人格に対する深い尊厳とともに、高い職業倫理をもって判断し、行動しなければならないことは言うまでもありません。
 さらに、精神科看護師には、患者-看護師関係を基盤に対象の個別性を尊重し、自律性の回復に向けて支援しなければなりません。

2.なぜ倫理が大切なの?

 もともと備わっている自然治癒力が弱まったり、心身の問題について修復する力が低下したりすると、自身で欲求を充足することが難しくなります。
 看護とは、対象者のセルフケア活動が低下したとき、回復や必要な選択を補うための一連の相互作用ということもできます。
 精神科看護師は、患者さんの健康上の課題などの解決に向けて目標指向性をもち、共感性をもって、患者さんに必要な看護援助を行う責任があります。
 しかし、精神科看護の対象となる患者さんは、病識や治療・ケアへの認識が乏しいことなどによって、看護に対して両価的な反応を呈することも少なくありません。
 継続的に、適切な看護を提供するためには、知識・技術・対応能力・ストレスコントロールなどの専門的技術が要求されます。その専門的技術の基軸になるものが、精神科看護の倫理観なのです。

3.精神科看護の12の倫理指針

 精神科看護師の倫理的課題の解決に向けた取り組みをさらに推進するために、日本精神科看護協会が定めた「精神科看護職の倫理綱領」があります。
 この中で、精神科看護の質を維持・向上させるための看護実践の際の指針となる、以下の12の項目が示されています。

①人権尊重
②善行
③無危害
④知る権利、自律、自己決定の尊重
⑤守秘義務
⑥自己管理
⑦人格の陶冶(とうや)
⑧継続学習
⑨看護の探究・発展
⑩多職種連携
⑪社会貢献・正義
⑫法や制度改正等に向けた政策提言

 これらは、精神科看護の専門職として社会に対して果たす倫理的役割と質の高い看護援助に不可欠な要素を示したものといえます。

4.具体的なケースで考えてみよう

 ここでは、「④知る権利、自律、自己決定の尊重」を例に、倫理観を大切にした具体的な対応について考えてみましょう。

退院支援を行っている場面

■「知る権利、自律、自己決定の尊重」が配慮されていないと…

患者さん:私、退院するのはまだ不安で仕方がないのよ。
看護師 :病状は改善していますから大丈夫ですよ。
患者さん:あなたはそう思うかもしれないけれど……。
看護師 :窮屈な入院生活よりも、きっとご自宅のほうが快適ですよ。

【ここを見直そう!】

  • □患者さんの価値観に沿った選択ができるように計画的な支援が行えていたのでしょうか。
  • □患者さんにとっての利益と不利益の両方を理解できる説明ができていたのでしょうか。
  • □患者さんが自分のニーズを整理して決定できる機会は設けられていたのでしょうか。

■「知る権利、自律、自己決定の尊重」をふまえると…

患者さん:私、退院するのはまだ不安で仕方がないのよ。
看護師 :今後の見通しを立てながら、一緒に困りごとを整理してみませんか?
患者さん:家には帰りたいんだけどね。助けてくれるかしら?
看護師 :安心して退院できるように、一つ一つ解決していきましょう。

【ポイント】

  • ・看護師は「患者さんには自分のことは自分で決定したい」という潜在的ニーズがあると考え、患者さんの自己決定を尊重する姿勢が求められます。
  • ・患者さんが支援者に助けを求めることができる関係性を構築すること自体が、患者さんの自律を尊重した専門的援助といえます。
  • ・結論を急がすことのないように、合意形成するプロセスを一生に歩む姿勢で取り組んでいきましょう。

5.もっと深く学びたい方へ(関連書籍のご案内)

事例とワークで深める 精神科看護倫理実践テキスト

精神科看護師に求められる「倫理」についてイラストも使ってわかりやすく解説し、倫理観の醸成に役立てられる一冊。倫理綱領の紹介のほか、臨床でよく遭遇する事例を多数取り上げ、身近に存在する倫理問題への対応のヒントを得ることができる。院内研修の教材としても最適。

日本精神科看護学術集会 共催セミナーの開催

6月28日(金)・29日(土)に、日本精神科看護協会主催の日本精神科看護学術集会が熊本市で開催されます。
中央法規は29日に、精神科看護における倫理教育をテーマにしたセミナーを、協会との共催で開催します。皆様のご参加をお待ちしております。

【学会の概要】

日程 2024年6月28日(金)・29日(土)
場所 熊本城ホール(熊本県熊本市)
中央法規共催セミナー 集会2日目(29日)12:30~13:30
テーマ「これからの時代の倫理教育と看護実践」