「トイレばかり行く…」認知症のある人への接し方
何度も「トイレ」の訴えをくり返す本人の思いとは
先ほどトイレに行ったばかりなのに、5分も経たないうちに再び「トイレ」と訴える認知症の方に対し、「行ったばかりなのにおしっこが出るわけない……」「おむつをしているし、大丈夫」と考えて、おざなりな対応になってしまうことはありませんか。
しかし、そのような接し方を続けていくとその方の不安が高まり、かえって対応が大変になることもあります。
おはよう21 2023年10月増刊号(イラストでやさしく理解する認知症ケアのキホン これだけは押さえたいポイント100)の一部を再編集して、認知症の方の「思い」に注目した排泄場面におけるケアのポイントをご紹介します。
【監修】
佐藤悠
社会福祉法人広寿会 特別養護老人ホームいすみ苑 総務主任
千葉県認知症介護指導者
認知症の方と介護者の「思い」のズレを見直す
何度も「トイレ」の訴えをする認知症の方に対しては、本人視点で思いを汲み取り、そこにマッチしたケアをすることが大切です。
よくある本人と介護者の「思い」のズレに注目して、認知症の方への接し方について解説していきます。
何度も行っているから尿意がないとは限らない!
身体的な原因を含め、あらためて確認
何度もトイレを訴える認知症の方に対して、「また?」と思ってしまうのはやむを得ません。
しかし、常に記憶障害が原因とは限りません。
膀胱炎などによる残尿感、過活動膀胱による尿意、自分がいる場所がわからないことでの不安や焦燥感等の心因性から感じる尿意など、訴えの背景には必ず原因があり、本人はその原因に基づき行動を起こしています。
実際、過活動膀胱では、尿意が頻回にあり、尿も出てきます。
そうした視点でも検証してみましょう。
尿意切迫感 | 頻尿 | 切迫性尿失禁 |
---|---|---|
トイレに急に行きたくなる | トイレに何度も 行きたくなる |
トイレに間に合わない |
本人が嫌だと言わないからOK?
声なき声に耳を傾けよう
認知症では身体機能に障害がなくても言語機能に支障をきたす「失語」が現れます。
「ブローカ失語」は、言葉の理解に大きな支障は生じず、比較的維持される一方、言葉を話すことに困難さが生じ、自分の思いや考えを伝える言葉が出にくくなったり、単語は出てきても文章としてうまく組み立てられない場合もあります。
はっきりとした言葉でおむつの不快感に対する訴えがないため、トイレの訴えがあっても「おむつがあるから大丈夫だろう」と考えて、待たせてしまうことがあります。
しかし、排泄を失敗してしまうと、本人の自尊心は傷つき、生活意欲の低下につながります。
おむつ使用時の不快感を想像して、本人の気持ちに寄り添いましょう。
また、おむつの不快感をもとに、排泄を我慢することで泌尿器系の病気を誘発する可能性もあります。
本人の「声なき声」に耳を傾け、介護者から気遣いの声をかけることにより、尊厳ある生活を守ることができます。
尿意・便意以外の可能性も?
「安全地帯」に逃げたいサイン
何度も同じ訴えをくり返す場合、不安や苦しさが背景にあることがあります。
施設入居者の場合など、気がついたら知らない場所にいて、知らない人に囲まれた空間にいて、「トイレに逃げたい」「誰かにそばに来てほしい」という思いがあるかもしれません。
そうした本人の気持ちに気づき、寄り添い、安全欲求や社会的欲求を満たすような居場所づくりが大切です。
また、認知症の方は、介護者のイライラした様子に敏感に反応し、否定されたという記憶が残りやすいといわれます。
介護者の「また⁉」という態度が、さらに不安や焦燥感を増幅させ、他のケアにも影響を及ぼす可能性があります。
認知症の人と介護者の思いのズレをなくすためには、介護者視点の考えや価値観で利用者のことを考えるのではなく、アセスメントをもとに本人視点を意識することが大切です。
トイレ介助に限らず、本人の視点を意識したケアをすることで不安を軽減させ、穏やかに過ごせる環境づくりを行いましょう。
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