今月のケアマネジャー
介護専門職の総合情報誌『ケアマネジャー』最新号の内容をご紹介します。
相談者の自己決定を支える
援助的コミュニケーションの技術
『ケアマネジャー』2024年8月号から、特集(相談者の自己決定を支える
援助的コミュニケーションの技術)の内容を一部ご紹介いたします。
ケアマネジャーの中核業務である面接。それがうまくいくかどうかで、相談者の今後は大きく左右されます。
今回の特集では、相談者の自己決定を支えるうえで援助者に求められる援助的コミュニケーションのスキルを紹介します。
援助的コミュニケーションとは
相談者のありのままを受け止めることが必要
私たちが支援をする目的は、相談者(ここでいう相談者とは、その課題に向き合っている当事者のことで、家族の場合もあれば、本人の場合もあります)が課題に向き合い、受け止め、よりよく生きていけるようにすることです。そのために、相談者との面接は欠かすことができません。
私たち援助者が面接を行う際、相談者はさまざまな困難に直面し、戸惑いのなかにいます。そうした状況で最初にすべきことは、相手の話した事柄(困った状況など)に対応することではありません。まずは相手という「人」を聴いて知ることが必要となります。どんなに似たケースであっても、まったく同じ状況におかれている相談者は一人としていません。相手のことは相手に聴かなければわからないという理解のもと、まずは相手のありのままを受け止めることが必要となります。
そのためには、表情などノンバーバルな部分に目を向けることも大切です。たとえば、「それってどうなんでしょうか」という一言をとっても、疑問を口にしただけなのか、怒っているのか、トーンによってとらえ方も変わってきます。援助者には、こうしたノンバーバルなメッセージも含め、相談者のありのままを受け止めることが求められているのです。
援助的コミュニケーションとは
援助者が相談者のありのままを受け止めると、相談者のなかには「援助者=理解者/私のことをわかってくれる人」という思いが芽生え始めます。これが信頼と安心につながり、相談者の直面している問題の解決に向けて協働していくための土台となります。
しかし、皆さんにも学んだことを実践しているはずが、なぜか相談者とのやりとりがうまくいかないという経験があるのではないでしょうか。こうした課題を抱えたままでは、信頼関係を築くことができないばかりか、その後の問題の解決まで阻害されてしまいます。
そこで必要となるのが、援助的コミュニケーションです。援助的コミュニケーションの目的は、相談者が自己決定をしながら、自己解決に向かえるようにすることです。その実践のうえでは、相談者の経験や思いを理解することや、相手の意向を重視することが求められます。
まずは、次の「介護の困りごとを相談する」場面での、一般的なコミュニケーションと、援助的コミュニケーションを比較してみましょう。
皆さんはこれらの会話例の違いがわかるでしょうか。相談を受けた側(一般的なコミュニケーションでは友人のBさん、援助的コミュニケーションではケアマネジャー)に注目して読んでみてください。
一般的なコミュニケーション
~Aさんから友人Bさんへの相談~
- Aさん:ちょっと相談があるんだけど……。
- Bさん:どうしたの?
- Aさん:うちの義母のことなんだけど、認知症じゃないかなと思っていて……。
- Bさん:同居しているご主人のお母さん?
- Aさん:そうなの。最近、義母の様子がおかしくて、パートから帰ると、ご飯が炊いてあったりするの。「何か手伝うことはない?」って時々言っていたから、それが理由かなとも思うんだけど、今までにないことだから認知症かなと気になって……。そんなことを考えているとしんどくなってきてね。Bさんのお母さんが認知症だと言っていたから、聞いてみようと思って。
- Bさん:わかる、わかる。ほんと親のことって疲れるし、嫌になるときがあるよね。私のところは実の母だったから遠慮なく言えたけど、Aさんは義理のお母さんだから遠慮もあるのと違う?
- Aさん:そうよね。実の母だったら言えるけど、やっぱり言いにくいかなあ。義母も認知症かもしれないけれど……。
- Bさん:私のときは一人暮らしの母のところに行くと、冷蔵庫に納豆が山積みでおかしいと思ったの。私も母をみていたからわかるけど、Aさんのお義母さんは認知症だとしても軽いわよ。でもね、デイサービスには行ったほうがいいよ。
援助的なコミュニケーション
~Aさんからケアマネジャーへの相談~
- Aさん:相談したいんですが、ちょっとよろしいですか?
- CM:もちろんですよ。どうぞ、おかけください。
- Aさん:実は一緒に暮らしている主人の母の様子が最近ちょっとおかしくて……なんか気になりまして。
- CM:うんうん、最近ちょっとおかしい、何か気になる感じなんですね。
- Aさん:はい、そうなんです。パートから帰ると、ご飯が炊いてあったりして、それが毎日続くんです。以前はこんなことはなかったので、なんかおかしい、認知症かなと思いまして……。
- CM:なるほど、お義母さんがお米を勝手に炊いてしまうのが続いていて、なんかおかしい、認知症かなと思われて相談に来られたんですね。そのおかしいなと感じ始めたのは、いつ頃からですか。
- Aさん:1か月くらい前からです。母はもともと家族のために何かしたいという思いが強く、私の子どもが小さい頃には夕方にご飯を炊いてくれていました。そのせいかな、とも思うんですが……。
- CM:お義母さん、ご家族のためにしてあげたいという方なんですね。
- Aさん:そうなんです、義母にはいろいろ助けてもらったんです。だから、おかしなことがあっても、ちょっと注意もできなくて。
- CM:いろいろ助けてもらったからこそ言えなくて、困っていらっしゃったのですね。ほかに気になる様子などはありますか。
- (中略)
- CM:認知症かどうか、診断できる場所などについてお知りになりたいでしょうか。認知症の可能性もはっきりするとは思いますが。
- Aさん:いえ、今話してみて、すっきりしました。やっぱりもう少しだけ義母の様子を見てから考えたいと思いました。
一般的なコミュニケーションで重視されるのは「同感・同調」
まず一般的なコミュニケーションでは、途中で話題が「Aさんの義母の認知症」の話から「Aさんの義母への遠慮」に変わったほか、相談事も明確な解決には至っていません。ですが、相談したAさんは、聴き手(Bさん)の経験に基づく助言を得たり、経験談を分かち合ったりしたことで、「自分だけではない」という一体感や、気楽に相談できたことによる開放感を得たはずです。
一般的なコミュニケーションで相談者が一体感や開放感を得られるのは、聴き手が「わかる、わかる」と相談者の思いに同感・同調してくれるからです(シンパシー)。ですが、同感や同調は聴き手の思いや経験に基づいて行われるものであり、相談者の個別性を尊重することはできません。たとえば、Bさんは「わかる、わかる」と「親のことで疲れる」という話をしていますが、これはAさんの経験を自分の経験に当てはめた発言であり、Aさんの個別性にはふれられていません。
援助的コミュニケーションで重視されるのは「共感」
一方、援助的コミュニケーションで重視するのは、共感(エンパシー)、つまり相談者の経験や事実、思いに基づき、相手の意向を尊重することです。援助的コミュニケーションの例で、援助者はあいづちや繰り返し、要約などの面接援助技術を交えながら、相談者の思いを聴き、何が起きているのかを理解しようとしています。その結果、Aさんからは「すっきりしました」という言葉が聞かれ、今後についてもAさんが決めていく流れで終わっています。
相談者が抱える課題は、相談者が抱える状況や思いといった個別性を尊重しなければ、解決しないことがほとんどでしょう。そこで一般的なコミュニケーションをしてしまうと、解決の方向性が定まらなくなってしまいます。私たち相談援助職は、相談者自身が解決に向かっていけるように支援する専門職です。意識的に援助的コミュニケーションを行って、相談者の自己決定や自己解決につなげていく必要があります。
高落敬子
ソーシャルワーク&カウンセリング「きくまなぶ」主宰
以上は、『ケアマネジャー』2024年8月号の特集の内容の一部です。ぜひお手に取ってご覧ください。
特集
Prologue
こんな経験はありませんか?
ケアマネジャーが直面する面接での6つの課題
Chapter 1
援助的コミュニケーションとは
Chapter 2
課題別 援助的コミュニケーションの実践
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