山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
「無償の愛、無償の介護」
もうすぐ母の日ですね。
母が子を想う気持ちというのは、何事にも勝る強さを感じます。
人間だけでなく、自然界の動物たちも、子を命がけで守るのは母親です。
母親というのは、自分の幸せはおろか、人生をなげうってでも、子の幸せ、人生を守ろうとするものです。
施設に入居したHさんは、3人の息子を育ててきた90歳代の女性。3人の息子様はそれぞれ家庭をもち、Hさんは長年一人暮らしをされていました。3人の息子様も、90歳を過ぎた母親を一人暮らしさせていて、心配していなかったわけではありません。後ろめたさもあったと言います。ただ、それぞれの家庭には、他人には分からない事情があるものです。
あるとき、ヘルパーさんがHさんのお宅を訪問すると、Hさんが家の中で倒れていました。転倒して頭を打ったのです。救急搬送され、大事には至りませんでしたが、病院を退院する際、担当医から「もう一人暮らしは無理です」と言われ、施設に入居することになりました。
入居してからのHさんは、いつも笑顔で楽しそうに振舞っていました。しかし、あるときから急に気落ちしたような表情、態度になり、食事も食べようとしなくなりました。
心配になった私は、気分転換にと思い、一緒に外出をしました。そのときに泣きながら話をしてくれたHさんの気持ちが、本音だったのだと思います。
「息子たちにはそれぞれ家族がいますから。私はできるだけ心配かけてはいけないと一人で頑張ってきました。でもね、病院を退院するとき、息子たちから『母さん、悪いけど俺たちは母さんと一緒に住めない。施設に入ってもらっていいかな?』と言われました。哀しかったですよ…。3人も息子を必死に育ててきて…。でもね、息子たちには心配かけたくないの。だからね、息子たちが面会に来ると、お母さんは今が一番幸せよっていつも伝えてるんです」
そう言ってHさんは泣いていました。
子を想う母親の気持ち。これこそが、世の中に勝るもののない無償の愛だと思います。
こういう母親たちの心を、私たちは三大介護だけで救えるでしょうか。
介護は作業じゃない。単位や加算に反映されない、心に寄り添うことこそ、私たちに求められている介護ではないかと思います。
新刊のお知らせ(編集部より)
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このたび、山口晃弘氏の著書が発行されました!
テーマは、介護現場の「リーダーシップ」と「人材育成」です。現場の職員から「一緒に働きたい!」と思われる人気者リーダーになるために、役立つ知識、使えるツール、心揺さぶられるエピソードが満載の一冊です。ぜひ、ご一読ください!
介護リーダー必読!
元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダーシップの極意
定価 本体2,000円(税別)
A5判、218ページ
ISBN978-4-8058-8278-8