山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
「優しさに包まれて」
これまで20年間、この仕事を続けてきて、どれだけの人を見送ったでしょう…。
100人や200人じゃない。こんなにも多くの人の人生の最期を共に過ごさせていただく職業はなかなかないと思います。
それでも人の最期はどうあるべきかなんてわかりません。
精神科医エリザベス・キューブラー・ロスは死を受容するプロセスを5段階としたことで有名です。
1。否認と孤立 2。怒り 3。取引き 4。抑うつ 5。受容
これに対して否定的な意見もありますが、私が多くの人の死を見てきたなかで、これに近いプロセスをたどる人が多かったことも事実です。
一方で、見送る側である家族(息子、娘)は、大切な親の死をどのように受け入れていけばよいのでしょう。
施設で看取りをさせていただくなかで、最期はその方の人生を肯定的にとらえてほしいと願うようになりました。
労いの言葉やお礼の言葉をかけてあげてほしい。旅立つ前に、自分の人生を「良い人生だった」と思えるように。
ただ、自分を育ててくれた親を失う子の喪失感。「明日からこの世界に親がいなくなる」「二度と会えなくなる」そう思う子の気持ちにも寄り添っていくべきだと思います。
最近は、尊厳死に注目が集まり、人生会議などを通して終末期には本人の望まない医療行為をしないことなども議論されています。経管栄養などの延命が否定的に言われることも多くなりました。たしかに、本人の望まない医療を施すことはよくありません。ただ、人生というのは、自分のものであっても、自分ひとりのものではないと思います。
どんな姿になっても、たとえ話ができなくても、親には生きていてほしい…。
そう願う子の気持ちに応えるのも、親としてのひとつの生き方なのかもしれません。
以前にも引用したことがありますが、
「人間にとって最も大事な日は、生まれた日と、生まれた理由が分かった日だ」
というのは、アメリカの小説家マークトゥエインの言葉です。
私はこの言葉を聞いてから、自分が生まれてきた理由が知りたいと、ずっと思ってきました。
しかし、ある人の言葉で、心が軽くなりました。
「親は子どもが生まれてきてくれただけで幸せなの。それだけで十分生まれてきた理由なのよ」
人が生きるのに、大そうな理由なんていらない。
親の愛、子の愛、夫婦、恋人、友だち…。たくさんの人の優しさに包まれて人は生きている。
最期まで人の優しさに包まれて生きる。
これが一番幸せな人生のような気がします。