山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
1円にもならないこと
私の勤務する特養千歳敬心苑では、『ちとファーム』といって屋上で野菜やお花を育てています。こちらのファームでの水やりなどを利用者さんにお願いし、皆さん収穫の日を心待ちにしています。
5月がとっても暑かった影響もあり、野菜が一気に成長しました。
先日、女性職員3人が休みの日に施設にきて、育ったじゃがいもをたくさん収穫し、「じゃがいも会」という企画を実施してくれました。
じゃがバター、マッシュポテト、ポテトチップ……次々に調理して利用者さんにふるまわれました。これには利用者の皆さん、大喜び。
食が細く、普段の食事はあまり進まない人も、「もっとおかわりないの?」と言って、たくさん召し上がっていました。
休みの日に職員が仕事にくることを、よいこととは決して思っていません。管理職である私としては、むしろ注意しなければならないところです。彼女たちもそのことは十分承知しています。
しかし、今は職員が不足しており、普段の業務で手一杯で利用者さんに楽しんでいただくイベントなどが少なくなっています。それが分かっているから、彼女たちは休みの日を使ってみんなで集まり、会を開いてくれたのです。
私は内心、みんなの気持ちがとっても嬉しかったですが、管理職としては注意しなければなりません。
「休みの日はしっかり休まないとダメだろう……だけど、ありがとう」と言うと、彼女たちは「えへへ。偉いでしょ。賞与はずんでくださいね!」と笑っていました。
これは彼女たちの私への配慮。心にぐっとくるものがありました。
5~6月は多くの法人で昨年度決算が確定し、理事会、評議員会などで承認されている時期だと思います。
社会福祉法人制度改革の影響もあり、財政の透明化や法人のガバナンス強化など、いまや福祉もビジネスライクにシフトしています。
しかし、現場は数字に表れないこんな職員たちの気持ちによって支えられているのです。
一円にもならないこと。
本当に価値あるものとは、こういった人の気持ちではないでしょうか。