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山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術

山口 晃弘(やまぐち あきひろ)

超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。

プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)

介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。

U.S.A.

 何の前触れもなく、ある日突然別れがやって来るときがあります。

 女性入居者チカさんは、一時間前までお手洗いに行かれていました。
 まったく普段と様子は変わらなかった。しかし、その一時間後にチカさんは呼吸をしていない状態で発見されました。
 救急搬送しましたが、チカさんの呼吸が戻ることはありませんでした。
 突然死だったので、警察も入りました。チカさんは、病院から警察に移され、施設と警察と家族の三者がやり取りし、チカさんは施設に戻って来てくれることになりました。

 警察の方がチカさんを移送してくれました。チカさんの身体はグレー色のシートにくるまれて到着しました。施設の個室に移ったチカさん。私たち職員がシートを外すと、チカさんは一糸まとわぬ姿で寝ていました。ショックでした。警察の対応をどうこう言いたいのではありません。ただただ言葉にならないほど、ショックでした。
 その姿を一緒に見た介護主任は大粒の涙を流していました。日本男児代表のような彼は、「チカさん……早う洋服着ような……」と優しく声をかけ、涙を拭いながら、身体をきれいに拭いてチカさんをお気に入りだった洋服に着替えしました。

 エンゼルケアが終わり、葬祭業者がお迎えにきました。
 施設では、出棺前にお見送りの会をしています。玄関へ向かう道で、昨年大ヒットしたDA PUMPのU.S.A.が流れました。この曲は、チカさんの大のお気に入り。チカさんはここ数か月、この曲をかけるとご機嫌になって、ノリノリで唄って踊っていました。
 ご家族もいらっしゃる中、不謹慎かとも思いましたが、ご家族も大変喜んでくれていました。

 お見送りの会では、職員がチカさんとの想い出を話しました。
 U.S.A.を聴いて踊るチカさん。リハビリを頑張るチカさん。自転車に乗りたいと、職員がピッタリ横について自転車に乗るチカさん。大好きなケンタッキーをめしあがるチカさん。職員達の脳裏に様々な想い出がよみがえりました。

 別れはある日突然やってくる……
 明日のことは誰にも分からないのです。
 だから今日という日を精一杯生きたい。生きてもらいたい。
 高齢者福祉に携わる私たちは、明日があると信じて、今日を幸せに生きるサポートを精一杯していきたいです。



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