山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
「お母さん」
人工知能(AI)が、いよいよケアプラン作成の支援をする時代に突入します。これは利用者の状態を入力すると、その利用者に適したサービス内容が提案される仕組みで、ケアマネジャーはそこから利用者や家族のニーズなどを取り入れ、最適なプランを完成させることになるようです。テクノロジーの進歩。すごい時代になりましたね。
一部では、ケアマネジャーが必要なくなる?といった意見も出ているようですが、そんなわけありません。プランナーとマネジャーはまったく違うのです。
私が特養のケアマネジャー(生活相談員と兼務)になりたての頃、苦い思い出があります。
106歳まで生きた女性入居者のAさん。
Aさんには、ほぼ毎日娘さんの面会がありました。106歳の方の娘さんですから、当然高齢です。シルバーカーを押しながら毎日面会に通う姿は、母であるAさんへの愛情を感じました。いつも部屋で二人きりの会話を楽しんでいたようです。
そんなAさんにも、お別れの時が近づいていました。医師から「もって二週間くらいかと思います」と言われてから、介護職はAさんの106年の人生を称えるべく、Aさんのお部屋を写真やAさんの好きなもので飾りました。
「Aさんの好きな物を一緒に見ながら、コミュニケーションをとっていきたい」
職員達の発想に感銘した私は、Aさんのケアプランをそのように作成しました。
そのプランを娘さんに説明した時のことです。
「お願いですから、母の部屋を元に戻していただけませんか?」
娘さんからこのように言われたのです。
「職員さん達が母を想ってしてくれたことは重々わかっています。ただ、あれを見ていると、死にゆく母を待っているような気持ちになります。私は母が目を開かなくても、口を開かなくても、どんな姿でもいいから一日でも長く生きてほしいのです」
正直ショックでした。最初は「なぜ分かっていただけないのだろう?」と思いました。
しかし、わかっていないのは私の方でした。
私たちにとってAさんは「利用者」です。娘さんにとってAさんは当然のことですが「お母さん」なのです。
80歳や90歳を過ぎて老人ホームに入居される「利用者」と、産んでくれたお母さん、育ててくれたお母さんとでは、そこにある愛や想いは、同じはずがないのです。
私はもう一度娘さんとよく話し合い、プランを作り直し、最期の瞬間を施設で迎えてもらいました。
AIが作るプラン。ケアマネジャーが行なうマネジメント。
ケアマネジャーが行なうべき役割は明確なはずです。