山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
-
介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
「今更ながら、尊厳の保持に悩む」
介護保険法第1条「目的」にある「これらの者が尊厳を保持し、有する能力に応じ自立した日常生活を営む……」という文言。介護保険法が施行されてから18年。今更ながら、この文言に新たな気付づきをいただきました。
私は、利用者と関わるとき、かなり丁寧に接しているつもりです。笑顔で接し、言葉を丁寧にし、相手の意思を確認してから介助を行う。そんなこと当たり前だろう、と言われてしまうかもしれませんが、実はこれだけで利用者の尊厳を保持しているような気になっていたのです。
介護職員が、ある研修に参加し、その報告をしにきました。その研修では、日常の介護場面を動画に撮り、利用者とのかかわりをみんなで確認するそうです。
主は利用者なのに、ほとんどの職員が「~しましょう」「~に行きましょう」と声をかけている。利用者を導いていますよね。本人の意思を確認していないのです。
これを言われてハッとしました。私も大いにその傾向があります。
言葉や態度が丁寧であっても、こんな基本的なことができていなきゃダメですよね。
それから、「尊厳」という意味や現場でどのように守られているのか、よく考えるようになりました。
たとえば、利用者に触れるとき、もっといえばパーソナルスペースに入るとき、都度承認を受けているでしょうか。
身体に触れられる、動かされるというのは、少なからず身体が緊張し力が入ります。他動的に動かされることを続けていると、徐々に筋肉や関節は固くなり、それはいずれ拘縮に変化していきます。
なぜ、「待つ」ということができないのでしょう。多くの職員は「時間がない」ということを理由にあげます。しかし、もしもこんな雑な他動的介助をしていたら、いずれ身体は拘縮し、介助は一層大変になるのです。結局、職員は自分で介護負担を増やしていっています。身体的重度になった利用者の介護は、元気な頃「待つ」ことよりも、トータル時間はもっとかかっていることになるのではないでしょうか。
尊厳のない介護をしていると、その結果、身体はさらに重度化し自分で動けなくなる。社会参加という尊厳をも奪うことになります。
改めて「尊厳」という言葉の重みを感じています。