山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
去り際は風のように
3月末日。
私の勤務する特養千歳敬心苑で開設から20年間、医務室長として支えてきてくださった看護師が退職しました。現在70歳。
定年はとっくに過ぎていましたが、ずっと施設側からの無理な依頼を聞いてくださり、今日まで勤め上げてくれました。
仕事に厳しい方です。2年前に私が入職してから、ほとんどまともに口を聞いてくれませんでした。
退職の意向を示した3か月ほど前。よく話をしてくれるようになったのは、その頃からです。
「あんたは、入居者と職員のこと真剣に考えてくれているから」
そう言ってもらえた時は、本当に嬉しかった。親や先生に認めてもらえた時のような嬉しさ。子供の頃に帰ったようでした。
退職の日の朝。いつも通り冗談を言って笑った後、室長は真剣な表情で言いました。
「何かの本で読んだよ。人間は生まれる時は選べないけど、死ぬ時は選べるって。もう死にたい……そう思えば死ぬことできるでしょ。食べなくなったり、飲まなくなったり。ここで年寄りをずっと見てきて、いろいろ考えさせられたよ。死にたくない。長生きしたい。そう思える環境をつくってやって。頼むね」
そう言って、室長は今までで一番優しい笑顔を見せてくれました。
送別会をすると言っても「そんなものやらなくていい」ときてくれない室長。
後任の指導にも「私のやり方を真似ることはない。自分のやりたいようにやればいい」と自分のやり方を押し付けない室長。
そこには、室長の生きざま、哲学、美学を感じました。
去り際は風のように……
20年間、人を幸せにしてきた室長。
今度はご自分の幸せを考えて、どうかお身体ご自愛ください。
20年間、本当にお疲れさまでした!
ありがとうございました!