山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
-
介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
介護でインフルエンザ患者を救えるか
全国でインフルエンザが大流行しています。
ある調査報告によると、先月28日までの1週間に全国で報告されたインフルエンザの患者の数は、1医療機関あたり52.35人で、調査開始以来最多だったとのこと。驚きの数字です。
かつて私の勤務していた施設で、インフルエンザに罹患し、高熱が出て病院に入院した女性入居者にSさんという方がいました。食止め、点滴のみで2日、3日と過ぎていきました。元々身体の細いSさんはみるみるやせ細り、誰の目にも命の危険を感じました。毎日面会に行っていた息子さんも心配していました。
入院してから病院の医師や看護師が声をかけても、Sさんは無反応。しかし、私たち施設の職員が面会に行って「Sさん、早く帰って来てね。みんな待ってるよ」と声をかけると、「はい」とニッコリ笑って答えてくれるのでした。
入院してから数日が経ち、Sさんのインフルエンザは完治しました。しかし、やせ細り、体力低下が著しいSさんは、食事をまったく摂ってくれません。点滴で命をつないでいるような状態になりました。
そんなSさんに、このままでは回復しないと感じた息子様は病院に退院を申請。私たちの施設に帰らせてほしいと依頼がありました。
医師からは、何も口にしていない状態で施設に戻ることのリスクを説明されましたが、息子さんは「このままでは数日命がのびるだけ。いずれにしても数日後に母は……。だとしたら、施設に戻してやりたい。それで何が起きても後悔しませんから……」と言って、退院を決意しました。私たち職員もSさんの退院を、喜びと覚悟で受け入れることにしました。
病院から退院してきたSさん。当日、職員たちの表情は喜びと不安が重なり合う複雑なものでした。お昼前に帰って来たSさんに私は「Sさん、ずっとお風呂に入ってなかったでしょ? ご飯の前にお風呂入ってさっぱりしようか!」と声をかけました。
職員たちが驚いた顔をしたのはわかりました。(お風呂なんて入れていいの?)おそらくそう思ったのだと思います。
私の中に、「病院から場所を変えただけじゃない。治療の場から生活の場に帰って来たのだ」という思いがあったのです。
お風呂で介助を受けるSさんは、とっても嬉しそうでした。「Sさん、気持ちいい?」と聞くと「うん!」とニッコリ笑ってくれました。
お風呂上り、寝間着ではなく、普段着に着替えたSさん。表情は元気だった頃のものに戻っていました。
食事は介助どころか、ご自分で召し上がりました。
あれから2年半。先日、息子さんからメールをいただき、「おかげさまで母は元気に過ごしています。職員の皆さんのおかげです」と書いてありました。嬉しいです。
介護でインフルエンザを治すことはできません。インフルエンザを治してくれたのは、医療です。医療で救ってくれた命。その後は、介護で心を救う番です。
そうやって医療と介護が連携することで、たくさんの命と心が救われていくのだと思います。
- 【お知らせ】
- 2018年2月28日(水)横浜でセミナーを開催します。
- 『介護人材の確保・育成・定着のためのリーダーシップ』
- 【開催日】2018年2月28日(水)
【時間】10:00~16:00
【会場】振興会セミナールーム
【受講料】一般10,000円 会員8,000円
【主催】公益社団法人 かながわ福祉サービス振興会 - ※申し込み・お問い合わせは下記サイトをご参照ください。
https://www.kanafuku.jp/plaza/seminar/detail.php?smn_id=1723