山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
別れはある日突然に・・・
お正月、松の内は入居者さんを交代で初詣にお連れしました。
97歳のSさんを初詣にお誘いしたところ、「連れてってくれるの!?嬉しい!」と満開の笑顔を見せてくれました。
入居してまだ4か月のSさんは、いつも編み物をしていて、編んだ物をプレゼントしてくれます。職員が「ありがとうございます!」と言うと、「私、こんなことしかできないから……」とはにかむSさんが、私は大好きでした。
神社でのお参り。Sさんは、長い時間手を合わせて何かお願い事をしていました。
施設に帰り、事務所の職員から「Sさん、何をお願いしたの?」と聞かれると、「この店(施設のこと)が繁盛するようにお願いしたの。97歳にもなって、自分のことなんてお願いすることないもの……」と優しく笑いました。
Sさんは、事務所の前に置いてある金と銀の鶴の折り紙がとっても気に入ったようです。
「素敵ね。こんなに素晴らしい物を折れる人がいるのね。どなた? あなたたちも、こういう物を習わなきゃダメよ」と言って、その折り紙をずっと見ていました。
「Sさん、お正月だし、その鶴と一緒にお写真撮りませんか?」と聞くと、「いいわね。撮ってくれる?」と言って、鶴を両手に持ち、にっこりと素敵な笑顔を見せてくださり、写真を撮りました。
その後、お部屋に戻るのにエレベーターに乗ると、「本当はね、願い事はあるの。だけど、困ったことやお願い事があったら、あなたに言えばいいでしょ。みんな、あなたに言えば何とかしてくれるって言ってるよ」と、さっきの優しい微笑みとは違い、いたずらっ子のように無邪気な顔して笑っていました。
それから一週間後、Sさんは亡くなりました。
あまりにも突然でした。さっきまでお元気だった方が、急に具合が悪くなり、あっという間に旅立ってしまった感じです。
施設から出棺の際、娘さまは「母の写真ってありますか?」とおっしゃり、一週間前の初詣の時の写真をお渡しすると、喜んでくれました。
何度も経験してきていることですが、別れはある日突然にやってきます。
悔いのない人生の終わり方……もしかしたら、そんなものはないのかもしれません。
ただ、旅立つ瞬間「良い人生だった」と思っていただきたい。
それには私たちは何ができるのだろう……
いつも想うことはそれだけです。