山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
人の心を動かす物語
介護施設における虐待がなかなかなくなりません。解決策として、虐待防止に関する研修などが行なわれていますが、根本的解決には至らないようです。
一体、どうすれば虐待をなくすことができるのでしょう。
私は指導方法の一つとして、「ストーリーテリング」という技法を用います。
ハリウッド脚本家達の師といわれるロバート・マッキー氏いわく、人の心を動かす物語には、「4つの型」があるといいます。
- (1)バランスの取れている状態
- (2)事件発生
- (3)バランス回復への努力
- (4)努力によって真実の発見
私はこの方法を用いますが、マーケティングを学ぶ人なら「ストーリーブランディング」という技法の方がなじみあるかもしれません。「ストーリーの黄金律」というのがあって、「(1)何かが欠落している」、または欠落させられた主人公が、「(2)何としてもやり遂げようとする」。遠く険しい目標やゴールに向かって、「(3)数多くの葛藤、障害、敵対するものを乗り越えていく」、としています。
ようするに、この「型」に当てはめて物語をつくっていくと、人の心を動かす作品になりやすいのです。
私の場合は、この型に利用者の生活歴を当てはめて職員に聴かせる方法を用います。このような大変な時代、大変な人生を生きてきた人だからこそ、高齢になって介護を要することになっても、認知症になったとしても、大切にされなければいけない。という伝え方をします。
また、何かを達成するために、職員が努力をしなければならない場合も、この型を用います。そこに、努力する意味や達成した感動をより得ることができるのです。
人は物語に対して敏感です。
小さい頃、お爺ちゃん、お婆ちゃんから聞かせてもらった昔話や童話を大人になっても忘れないのは、それが物語だったからです。単なる言葉や数字は覚えているのが難しいですが、物語は頭に記憶されやすい。
テレビ番組で、スポーツ選手のドキュメントなどが放送されると、その選手への思い入れが一気に強くなります。また、商品開発のプロセスなどが紹介されると、その商品が急に爆発的ヒットをしたりします。
人は物語に反応しやすく、感情移入しやすいのです。
虐待をなくすため、介護の質を上げるため、利用者に優しい職員を育成するために、ストーリーテリング、ストーリーの黄金律を使ってみてはいかがでしょうか。