山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
花より団子……だからこそ
4月、お花見のシーズンですね。
多くの事業所で、利用者さんを花見にお連れしていることかと思います。
私の勤務する特養でも、この期間は毎日のように利用者さんを連れて花見に出かけます。
先日も、車で桜のトンネルにご案内すると、「わー!すごい!これはいいわー!いい所に連れて来てもらったわー!」と、大変喜んでくれていました。
トンネルを通過し、「きれいでしたね。それでは帰りましょうか」と職員が言うと、利用者さんは無言に……
「せっかくだから、喫茶店でも寄って何か食べていきましょうか?」と私が聞くと、「そうねえ。せっかく来たんだし、行きましょうか」となるのです。
喫茶店に寄って、パンケーキとココア(甘すぎ)を召し上がる利用者さんたち。「あー美味しかった。もう、腹いっぱいで夕飯入んないな」とご満悦。
喫茶店を出て、駐車場へ。「〇〇さん、さっきお花見に行ったの忘れてない?」と聞くと、「え?ああ、行った行った。忘れてないよ。それにしても、ケーキ美味しかったなぁ。あっはっは!」まさに、花より団子です。
こういう機会を見るにつけ、人間にとって「食べる」という行為がいかに楽しみで幸せなことなのか考えさせられます。
だからこそ、高齢になっても、「食べる」という力をできるかぎり維持したいのです。「常食」と言われる、いわゆる普通の形の食事を食べられるように。
お粥や刻み食などを食べていると、外で食事をする機会があっても、対応が難しいです。今回、アイスクリームと生クリームとチョコレートの乗ったパンケーキを見た時、利用者さんは、「わー!」と声を上げて喜びました。食べ物は見た目も大事。溶かしてしまったり、崩してしまったりしては、魅力は半減してしまうのです。
最近、むせることが多いから……誤嚥したら大変だから……。危険を察し、リスクマネジメントすることは専門職として大事なことです。しかし、安易な食事形態の変更は避けてほしいと思います。歯科医師や歯科衛生士にオーダーして、一度や二度検査をしたからといって、その時の判定が本当に適切なのでしょうか。大勢の人が見ているなか、緊張しながら、鼻にカメラが入って飲み込む食事。否定はしませんが、それよりも毎日のように食事を見ている、いや、生活全般を見ている介護職の判断の方が正しいこともありませんか?
その判断ひとつによって、これから先も美味しい物が食べられるか。好きな物が食べられるか。「人生が変わってしまう」というのは、大げさでしょうか。