山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
命の教育
特養という所は、要介護度も医療依存度も高い方が多く入居されています。
そのような中で、やはり年間何人かの方とお別れすることになります。
先日、一人の女性入居者様が旅立たれました。
私たち職員は、施設に入居されている方を「入居者」もしくは「利用者」などと呼びます。亡くなられたのは、入居者のAさん。
入居者のAさんは、ここ数か月、食事や水分の摂取量が少なくなっていました。全身の浮腫みも顕著で、医師からは「老衰」と言われていました。
いつ何があってもおかしくない……。私たち職員は、入居者Aさんのその時に備え、看取り介護計画を立て、家族の同意を得て、粛々と介護にあたりました。
旅立たれた入居者Aさん。私たちは、いわゆる「エンジェルケア」を実施し、入居者Aさんに最後の介護をしました。
今まで数年間、施設で生活していた入居者が亡くなるのは、職員にとっても悲しいこと。職員達は努めて明るく振る舞い、施設での思い出話などをしながら、全身の清拭や着替えをさせていただきました。
家族が到着しました。
この瞬間、空気が一変します。
言葉なく、泣き崩れる娘さん。
「お婆ちゃん……」涙を流しながら、お婆ちゃんに抱きつくお孫さん。
私たちは、その姿を黙って見守ることしかできません。
ご家族が思い出話をできるようになるには、時間……月日が必要です。
それは、Aさんが「入居者」でもなく「Aさん」でもない。「お母さん」「お婆ちゃん」だからです。
私たちが学ばなければならないのは、日頃、生活のお世話をさせていただいている「入居者」は、一人ひとりが誰かにとっての「大切なお母さん」であり、「大好きなお婆ちゃん」であることです。
このことを、看取りの時だけに思い出すのではなく、日頃から忘れてはならないのです。
そうすれば、子供に話すような失礼な言葉遣いも、人手が足りないからとお手洗いを待たせることも、当たり前ではないと気付くことができるはずです。
食事、入浴、排せつの介助。それだけをしていれば、私たちは自分たちの務めを果たしているでしょうか。その人の今までの人生が報われるでしょうか。「大切なお母さん」「大好きなお婆ちゃん」を預けている家族の想いに応えているでしょうか。
命の現場である「介護」という仕事。そこに従事する私たちのするべきこと。
今一度、考える年にしていきたいです。