山口晃弘の超幸齢社会の最幸介護術
超高齢社会を実り多き「幸齢社会」にするために、
介護職がすべきこととは?
元気がとりえの介護職・山口晃弘が紡ぐ最幸介護術。
- プロフィール山口 晃弘 (やまぐち あきひろ)
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介護福祉士、介護支援専門員。1971年、東京都生まれ。高校卒業後、設計士、身体障害者施設職員を経て、特別養護老人ホームに入職し、介護職・生活相談員を務め、その後グループホームの管理者となる。
現在、社会福祉法人敬心福祉会 千歳敬心苑の施設長。著書に『最強の介護職、最幸の介護術』(ワニブックス、2014年)、『介護リーダー必読! 元気な職場をつくる、みんなを笑顔にする リーダシップの極意』(中央法規出版、2021年)がある。
旅姿六人衆
先日、勤務地である東京都世田谷区で開催された『第8回せたがや福祉区民学会』(世田谷区福祉人材育成・研修センター主催)に参加してきました。この会では、高齢領域に限らず、障害や児童など幅広い団体や個人の活動の実践研究発表が行なわれており、今回も約500名が参加する大きな大会になりました。
私たち特別養護老人ホーム千歳敬心苑は初参加。テーマは『ファミリーハッピーライフ リターンズ!』です。この発表は、特養入居者家族の衝撃的な言葉から始まります。
「特養に入居するということは、いろんなことを諦める、ということだと思っていました」
これは、100歳になる入居者の娘さんから言われた言葉です。この言葉を聴いた時、職員はショックを受けました。
「いろんなことを諦める……」いろんなことって何だろう?諦めた何かとは?……職員達は考え、その「諦めた何か」を知るために、入居者や家族から聞き取りをしました。その中のひとつが、今回の発表になった入居者と家族の一泊旅行です。
100歳になった入居者は、いわゆる寝たきり状態です。そんな入居者と、もう一度ご飯を一緒に食べること、もう一度お風呂に一緒に入ること、もう一度枕を並べて一緒に寝ること。その「諦めた何か」を取り戻すため、職員は一泊旅行を企画、実践しました。
今回の発表は、男性介護職二人がまとめたものです。二人にとって、このような発表は初めてのこと。粗削りであったことは否定できません。しかし、会場の方達から「感動しました」という言葉をたくさんいただきました。
決して学術的ではありませんでしたが、彼らの発表には「心」がありました。
「諦めた何か」に対して、彼らがたどり着いた結論は、「何も諦めなくていい施設を創る」でした。何も諦めなくていい施設を創れば、諦めた何かなんて関係ない。ちょっと乱暴な結論。しかし、素晴らしい結論だと私は思いました。
今回の大会には、発表者の男性職員二人と、施設長はじめ男性職員四人。つまり男ばかりの六人で参加しました。
大柄な私を筆頭に、スーツ姿の男たち六人は、ちょっと福祉っぽくない厳つい集団。
まだまだ粗削りではありますが、介護、福祉に「心」が大切さであることは理解しています。
迷走する介護業界に旅立った私たち。これからどんな旅が待っているのか楽しみです。